1泊目
尾道/周辺の島々

東京発のバスに乗ると、
日本のほとんどの場所へ行くことができる。
そのうちのひとつへ行き、
土地の空気に触れ人びとの仕草を見る。
特に何を見る、体験する、
食べるといった目的があるわけではない。
ただ知らない場所へ行ってみる……
それがNIHAKUだ。
予定調和は一度捨てて、
肌で感じる旅に出よう。
バスは尾道へ。

駅に向かう人で混み合う
横断歩道の脇にある停留所に、
そのバスは出発時間ギリギリでやって来た。
2人の運転手のうちのひとりが
チケットを確認し
乗客の人数を確認すると
夜行バスは新宿の小田急ハルク前から出た。
小田急シティバスの
福山、尾道経由、三原行きだ。
21時に新宿を発ち、翌日6時頃に福山、
今回の目的地である尾道へは
7時半頃に着く。
走行距離約750キロ、
10時間半の移動である。
近年の夜行バスは以前よりも
心なしか快適になっている。
以前に乗ったどこかのバスは、
前列のリクライニングシートが
かなりフラットに近いところまで倒れた。
おかげで後列に座っていた
私の太ももはしっかり圧迫され、
前列の寝顔をしっかり見ながら
移動なんてこともあった。
今回乗ったバスは快適な3列シートで
しかもカーテンを引くと
隣と遮断できるようになっていた。
以前とは比べ物にならない快適さだった。

早朝、尾道駅前にバスが着くと、
そこは潮の匂いに満ちていた。
駅前の雰囲気は現在の鎌倉に近い。
駅の目の前はすぐに尾道水道、
背面は急勾配の山。
山の頂きには
尾道城(1990年代に閉鎖)が見える。
町は尾道水道に沿って広がっている。
試しにロープウェーを使って登ってみると、
その様子は一目瞭然だった。
視点を変えて遠目から眺めると、
古くからある町の独特な空気なのだろう、
新宿駅にいた時とは少し時間の流れ方が
変わるような錯覚に陥る。

尾道の坂は細く、時に曲がり、
ノスタルジックな雰囲気のある坂が
多いとされている。
そんな坂を歩いていると、
そこを往来する人たちの仕草も、
今ではないいつかの仕草に見えてくる。

尾道水道の幅はそれほど広くない。
汽船で10分ほどである。
そのため波もなく防波堤も低い。
尾道を船の上から眺めると
背後の山がいっそう
勾配を増しているように見える。
熱海のような密度のある町並み。

柳本史歩(やなぎもと・しほ)
1976年 東京生まれ
1999年 東京造形大学卒業、以後フリー
2005年 フォトシティさがみはら新人奨励賞受賞
写真展多数。写真集に『生活について』など。