公文健太郎
Kentaro Kumon

本連載では、第一線で精力的に活動している若手写真家にインタビュー。
第1回はルポルタージュ、ポートレートを中心に活躍する公文健太郎さんに、
その活動内容や、写真家という仕事に対する想いをうかがいました。

――活動初期はネパールの農村で撮影していた公文さんですが、まず、ネパールへ行ったきっかけを教えてください。

高校3年生のとき、ネパール出身の同級生から実家においでよ、と誘われたのがきっかけです。首都カトマンズ周辺に2週間滞在していましたが、最終日、営林関係の仕事をしている彼の父親が郊外の林業地域へ連れて行ってくれました。その風景と暮らしに一目惚れし、翌年から夏休みを利用してネパールに通うようになりました。

――どのようなところに魅力を感じたのでしょうか?

ネパールの農村風景はとても日本に似ています。カトマンズ周辺は稲作地域で、日本と同じように水が豊か。また、宗教観も八百万(やおよろず)の神がいる日本と近いところを感じ、どんどん惹きつけられていきました。顔のつくりも日本人とどこか似ていて、居心地が良かったのもあります。ただ、その魅力を伝えようにも、絵を描くことや文章を書くのは苦手。そこで選んだのが写真でした。当時は父から譲り受けた古いカメラを無理矢理修理しながら使っていました(笑)。

――――写真を教えてくれた人は?

ドキュメンタリーがどういうものかを教えてくれたのは写真家の本橋成一さんです。本橋さんのもとへ通うようになってから、自分の好きな風景や幸せな瞬間だけではなく、もっと深いものを撮りたいと思うようになりました。長倉洋海さんにも影響を受けました。アフガニスタンの抵抗指導者マスードやエルサルバドル難民キャンプの少女へスースのように対象を個人に絞り、「誰か」を通して「国」を語るという方法はとても参考になりました。

――学生の頃から写真家になりたいと考えていたのですか?

大学を卒業したら1年間ネパールで暮らそうとは考えていましたが、写真家になろうとは思っていませんでした。しかし、ネパールの友人から言われた「夢を見るのが嫌だ」という言葉が胸に突き刺さりました。自分は夢を叶えられないからすごく苦しいと。ネパールでは女性は親が決めた男性のもとへ嫁ぐことが多く、彼女も恋愛することさえ禁止されていました。その言葉を聞いた時、将来の夢を叶えたくても叶えられない友人がいるのに、叶えようと思えば叶えられる自分が逃げているのはおかしいのではないか。写真が好きなのであれば、それを仕事にしていくことを諦めたら彼女たちに申し訳ないという思いが湧き上がってきました。

――写真を仕事にすると決めてからは?

本橋さんの紹介で写真家の山口規子さんと出会い、リゾートや料理の撮り方など広告写真のノウハウを学びました。その経験は写真家として生きていく上で大きな財産になっています。「ドキュメンタリー」をお金に換えようとすると、センセーショナルなことをするか、何かに媚びなければならないときがあります。でも、それは自分のやりたいこととは違います。だから、ドキュメンタリーは自分のやりたいようにやる、そのためには広告写真の仕事をきちんと責任を持ってこなすことが大切だと思っています。

――日本の農家に目を向けたのはいつ頃でしょうか?

以前、『家の光』というJAグループが発行する雑誌で約2年半ほど、農家のお母さんたちがつくる家庭料理のレシピを取材したことがありました。当時は作品にしたいという意識はなかったのですが、その後「ふるさと」を撮ってほしいと依頼をいただいたときに、『家の光』の取材で知り合った佐賀のレンコン農家のお母さんの顔が頭に浮かびました。中学校から東京の寮生活で、いわゆる「ふるさと」と言える土地を持たない自分にとって各地で受け入れてくれる人たちのいる場所もまた「ふるさと」ではないのか。元々、人の営みが作る風景に興味を持っていたこともあり、日本の農家をテーマとして作品制作に取り組むようになりました。

――公文さんにとって写真家の仕事とは?

「よい写真」とは「残る写真」だと考えています。絵と違って目の前にある現実がそのまま写し取れる写真は記録性という他にはない大きな特長を持っています。どれだけ美しく、感動した風景であったとしても残っていかなければ意味がありません。どのような形であれ、誰かに残される写真には価値があると思います。写真家はその価値をつくる仕事です。美術館でも、家の壁でもいい。「残っていく」写真をたくさん撮っていきたいですね。

著 者 プ ロ フ ィ ー ル

公文健太郎

くもんけんたろう・1981年生まれ。写真家。ルポルタージュ、ポートレートを中心に雑誌、書籍、広告で幅広く活動。同時に国内外で「人の営みがつくる風景」をテーマに作品を制作。近年は日本全国の農風景を撮影し『耕す人』と題して写真展・写真集にて発表。公式サイトはこちら