【今回の訪問先】写楽加茂
本誌月例で長らく活躍した外石富男さんが率いる写真クラブで、新潟県展から各地のコンテストで結果を出しているメンバーが在籍。スナップから風景まで幅広いジャンルの作品を発表する。
プリントの困りごと
5回目の本連載は、新潟県加茂市へ出張してきました。講師の鈴木サトルさんは本誌を含むカメラ雑誌 誌で年度賞を受賞。さらには昨年、月例コンテストの審査員を務めるなど、応募する側、審査する側を経験しているので、いろいろな視点から困りごとを解決していきます。参加クラブは、こちらも本誌月例で活躍した外石富男さんが会長を務める「写楽加茂」のみなさん。さあ、プリントの困りごとをどう解決していくのか。使用するプリンターはノビサイズまで対応する顔料プリンターのSC-PX1Vです。
写真家。3誌のカメラ雑誌で年度賞を受賞。独特の視点と感性から発見、創造し撮影する。2023年、本誌月例コンテスト審査員。写真集
鈴木さんの実体験!
コンテストを始めたときに感じた困りごと
きれいなプリントって一体どういうもの!?
カメラ雑誌の月例コンテストに応募するようになり選評で頻繁にでてくるのが「きれいなプリント」という言葉。自分以外の 応募作品がどんなものかわからないので、「きれい」の基準がわからず、反対にダメだと言われているのがどんなものかを想像。その結果……導き出した答えが以下になります。
自然な仕上がりになっている
選評で彩度やコントラストに触れられることが多く、過度なレタッチ作品は評価を落としてしまうと分析。
内容と用紙がマッチしている
手に取って審査をするので、厚みのある用紙であることはもちろん、内容によって用紙を変えると印象がよい。
自作者の意思が込められている
撮りっぱなしではなく、周辺光量を落として主役をさりげなく強調するなど狙いを伝えやすくする。
審査員が困る3大失敗プリント
1コントラストが強すぎる —– 作品の内容に合っていない
コントラストは写真の見栄えを変えてくれるのですが、内容に合っていないと印象に残りません。ただコントラストが高いといいわけではないのです。
2彩度が高すぎる —– 自然の印象を損なったらダメ
鮮やかにしようと思うと「もうちょっと」という気持ちがエスカレートし、結果的に「派手過ぎる」プリントに気付かなくなってしまいます。
3シャープネスが強すぎる —– ピンボケ写真は直らない
シャープネスは適度にかけるとキリっと仕上がりますが、強めにかけたり、ピンぼけ写真を直そうとしてギザギザになっている作品が多く見られます。
コンテストプリントの極意
いくら内容のいい写真でもプリントがダメだとあっという間に落選となるのがコンテスト。
最後まで手を抜いてはいけません。ただし、手をかけすぎも失敗の原因になります。「軽くお化粧をしてあげる」というイメージで、レタッチをするのがコツです。
プリントの困りごとを解決する !
平凡な作品に見えてしまう
長谷川 明さん
日中の写真で影を活かした面白い作品ですが、昼間の光だけに平凡に見えがちなのは仕方ないところです。
レタッチは「やり過ぎたな」という印象を与えなければよいと考えますので、雰囲気を損なわない程度に青みを加えてみるとブルーの世界が浮かび上がります。SC-PX1Vは青の表現を得意とするので、とてもきれいに描き出してくれました。ハイライトが飛ばない配慮も必要になります。
レタッチによってイメージが大きく変わることを感じましたが、それを反映させるにはSC-PX1Vのようなフォトプリンターのほうが有利だというのを学びました。
どうしたら良くなるのか教えてほしい
田澤 直美さん
紙厚のない用紙なので手にしたときに「あれっ」と思ってしまいます。それによって落選することはないのですが、審査員はなんとなく印象悪く感じるものです。
【改善点】
素敵な光景ですが、左の桜まで欲張り過ぎたことで作品性が損なわれています。左をカットしカメラの比率にこだわらず、横長のパノラマにしてみると素敵です。Epson Print Layoutを使って白フチの幅を調整するともっと見栄えがよくなります。
彩度やコントラストなど細かい調整によってプリントの仕上がりが変わることがわかりました。プリンターでの作品づくりが楽しみになりました。
何がきれいなプリントかわからない
小林 英子さん
私も最初「きれいって何?」と悩みましたが、白い花を見ると緑っぽくなり「濁って」います。濁りは「きれい」という印象にはなりません。
【改善点】
緑っぽい場合は 、マゼンタを加えていくと濁りが解消し、きれいになります。最初はどの色をいじればいいかわからないでしょうから、いろいろと設定を変えてみる とどう変わるかが見えてきます。明瞭度を上げて重厚感のある半光沢系の用紙に印刷するとかっこよくなります。
自宅のプリンターは年賀状作成の時しか使っていませんでしたが、作品づくりに活かすことで表現力が高まること がわかりました。自分でできるようになりたいです。
困った時の実践テク
わずかな色の違いで印象が大きく変わるのですが、その度合いは意外とわかりにくいです。そんなときは思いっきりバーを動かし、徐々に戻して、いいと思ったところで止めるのがお勧めです。
自分のイメージをプリントに込められない
小柳裕子さん
お店プリントは、店員さんとコミュニケーションが取れて、小柳さんの思いがプリントに反映されるかがポイントです。一方で、自分で手をかけると細部まで思いを込めやすいのも確かで、納得のいく作品づくりができます。
カラーやトーンを変化させることができるのでハーフNDフィルターのような効果となります。ここでは左下から右上に向かっていくように選択し、露光量を下げることで左下から濃くなるようにし、画面に変化を付けています。
【改善点】
牛の足が上がったタイミングや斜めにしたことによる動感 、さらには観衆と面白い場面ですが、手前の明るい地面が目立っています。ここは重い雰囲気が似合うので、コントラストと明瞭度を上げて、さらには手前を少し暗くすることで荒々しさの伝わるプリントになりました。
お店のプリントと自分でイメージ通りに仕上げるプリントとの違いがわかりました。コンテス ト応募をしているのですが、プリントの大切さを感じました。
グリーンの出し方が難しい
中村 尚志さん
この作品は、グリーンや石の色を見ると彩度が高いことがわかります。彩度は見栄えを良くしますが、やりすぎはNGなのです。
【改善点】
葉っぱの緑などは彩度を高めるとイキイキとした色に見えてくるのでついつい派手にしていきがちですが、自然の印象を超えてくると主役であるキツネの存在感が弱まります。SC-PX1Vの自然な発色と階調の豊かさを活かし、さらにはマット紙にすることでキツネの生活環境を的確に表現でき、3匹の視線が強調できます。
作品づくりのためにレタッチの必要性と作品の内容にあった用紙を選ぶ ことで手にした時のイメージがまったく変 わってくることがわかりました。
インパクトのある作品にしたい・・・・・・
藤田 千秋さん
【改善点】
私はこのような場面ではモノクロにプリントすることを想定して撮ります。もちろん撮った後にモノクロが似合うかなと思ったらそれでもOKです。明瞭度とコントラ ストを上げて、周辺光量を落とすことで男性の渋い雰囲気を表現できます。用紙も光沢紙ではなく〈絹目調〉のほうが質感まで伝えられます。
写真を芸術的に仕上げるにはトリミングから色調整、さらには用紙選択、プリント仕上げまでこだわる必要があることを知りました。
鈴 木 流 プ リ ン ト ワ ー ク 術
コンテスト応募の時に意識していた3つのことです。 一枚の写真をいかに「作品」に仕上げるかがポイント。
周辺光量を落とす
→ 視線誘導
画面四隅が暗くなることで自然と主役に視線が向く効果を生みます。ただし、やりすぎはNG。「さりげなく」に留めることです。
モノクロ化
→ 別の作品になる
私はよくモノクロにすることが多いのですが、カラーだと平凡でも色がなくなることで形が浮き彫りになってカッコよくなることがあります。
用紙を変える
→ 印象が変わる
自分のお気に入りの用紙を決めてそれにこだわるのもよいですが、雰囲気に合わせて用紙を変えると表現力が高まります。
Epson Print Layout なら確実に「きれい」にプリントできる
意外とあるミスが用紙の選択を間違いなどですが、「こんなものかな……」とミスに気付かないことも。それを防ぐにはEpson Print Layoutが便利です。また関心の高い白フチもプレビュー画面が出るので感覚的にフチの幅を決められます。
今回はマスクを使っての線形グラデーションなど少し難しいテクニックも使いましたが、一度覚えたら難しくはありません。むしろ自分の思い通りにプリントが仕上がるので作品づくりが楽しくなります。コンテストは入賞することで喜びが得られます。そのための準備として撮るだけではなく、プリントにも力を入れると入賞率が高くなるはずです!
鈴木サトル