動画で紡ぎだす日々の愛しい空気

スナップと動画は相反するものかもしれません。瞬間的に捉えるスナップショットをふだん撮っている人は、時間として切り取る動画の視点を探し出すのが難しいと感じるかもしれません。けれども、視点を増やすことは可能性を広げるいい転換点となります。一つの見え方に固執せずに、真逆のものと対峙するときに新しい表現が生まれることもあります。

映像とは、写真よりもずっと情報を含んだ表現ツールで、それゆえに、情報を完全にコントロールして選択する必要があります。構成力や経験があれば、音や動き、編集のリズムにより多様な表現ができる自由なアートだとも思います。

わたしにとって、つくっていて一番楽しい映像は、愛しいものをその空気ごとつないでいくものです。自分が今なにが大切で、なにを譲れないのか。それがはっきりすると、写真表現よりも空気感を撮ることはやさしいです。日々の中にある、消えていく愛しいものをEOS R8で素直に撮りました。動画機能にあるハイフレームレートやオールドムービーフィルターは、普段見えている時間軸や感覚を大きく変えて撮ることができます。映像は、そういう最新の機能に頼りながら、撮りながらでも心地よい流れを感じられます。編集前でも、既に頭の中で完成していることが理想で、そういう映像はとても力強く、そしてしなやかに心に染みていくと思います。


フォトコン5月号 キヤノンEOS R8 日常が作品になる

カメラの種類がたくさん世に出ていて悩ましい時代。どのカメラを買おうか悩んでいる人も多い中で、近くにいる人には、このカメラはいいかもと素直に伝えてしまうのです。

私のアトリエにもカメラ選びで悩む人が尋ねてきます。聞こえてくるのは、重いカメラは持ちにくいとか、遠出しても近所でも撮りたくなる写りのカメラはどれかなど、ユーザーはとても自由で気まま、そして妥協したくないという固持も見えます。年齢やカメラ歴に関わらず、いい意味でわがままに選ぶことができるようになった今だからこそ細やかに整っているEOS R8はいいなと感じました。

私は日々、自分のテリトリーを意識し考えています。それは場所ばかりではなく、時間帯や相手との距離、感情も含まれます。どこまで自分が踏み込んでいいのかを探っているのです。誰かが想像するほど自由気ままな可動域を持ち合わせていないからこそ、根底につくるテリトリーはとても大切なのです。

春爛漫の気候の中、卒園間近の幼稚園への送り迎えのワンシーン。細い路地を抜けながら通った最後の日。スキップしている息子と対照的に母心はすこし切ない。それが50ミリの画角にちょうどよく。大切な一瞬をちゃんとらえ、残せてうれしい。
キヤノンEOS R8・RF50mm F1.2 L USM・F1.2・1/2000秒・ISO200・WB日陰(A9,M7)

風を受けて散っていくオカメザクラ。F1.2で撮影していたので、花びらが溶けてしまうため、すぐにF1.6に。片手で荷物を持ちながら操作して撮影したので、ボディの軽さはほんとに助かった。
キヤノンEOS R8・RF50mm F1.2 L USM・F1.6・1/4000秒・ISO200・WB日陰(A3,G2)

古い家の畳に射し込む光、その上を麻のカーテンが風にのって行き来する。布の形と空気の感じがちょうどいいところを狙って撮ったので、しばらくの間ここで風の通りを眺めていた。こういう何気ない空気感は自分に合った機材じゃないと向き合えない。
キヤノンEOS R8・RF50mm F1.2 L USM・F1.2・1/2000秒・ISO200・WB太陽光(A3,G2)

例えば、日常の中にあるほんの小さな喜びや、慈しみ悲しみを見つけた場合、写真はその場に起きたこと以外に、それを膨らませて目に見える形に落とし込む技術や視点が大事です。けれどもその時に、誇張して近づきすぎると自分の心地よい表現ではなくなってしまいます。私の写真の多くが、超広角でぐいっと寄り切らないのは自分のテリトリーを意識するからです。

繊細に被写体を考えているからこそ、指やパーソナルスペースに合った機材を使いたいなと思うのは必然。EOS R8のカジュアルすぎず、フォーマルすぎないいで立ちはいつもの自分とリンクします。ふとした時の「ああ、いいな」をそのまま丁寧に膨らませて撮るとき、感覚が近いものが手元にあると仕上がりに違いが出てきます。

自分の個性や特徴は、足元から見つかるものだと思うのです。背伸びしてもカッコつけてもいいと思いますが、自分と離れた視点で無理に撮ってもそこには薄いものがただ写るような感覚がしてしまいます。日常にて自分の視点を見つけられると、テリトリー外に存在する時も自分らしい視点を失わずにいられます。自分の視点は個性です。いずれどんどん豊かに育ち自分自身同様、または未来にもなっていくのです。

そのときに信頼して想像できたり、繊細な部分を表現できるカメラとレンズは写真表現には欠かせません。惑わされず多くの中より選び出すことが必要です。自分の体調や心の変化、環境や時間のリセットなど、大きく動くことがある人生の中で、きちんと更新しながら一番合うものを手にしていたいのです。

そんな考えの中、EOS R8で写真と動画を撮り、編集し仕上げました。生き方や考えと一体感のある表現となった!と思っています。

散歩した港町の一角。ツタで覆われていた建物と手前の幌のバランスがとてもよかった。50ミリらしい写真。いいなと思った瞬間にもう撮っていたように感じる。それまでは青い海を撮っていたのだけれど、すぐにWB9400Kに変えて、補正でイメージ通りに微調整した。
キヤノンEOS R8・RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM・F6.3・1/800秒・ISO100・WB9400K(A7,M1)

陽が長くなってきて春を感じる時期。風が穏やかな海岸に息子を連れていく。まるで柴犬のようにぴょこぴょこと跳ね回るのを広角端でとらえる。こういうシーンの時、HDRモードという手もあるが、わたしは高輝度側階調優先をD+2にするのが好き。
キヤノンEOS R8・RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM・F5・1/800秒・ISO200・WB日陰(A7,G6)

EOS R8で気に入った3つの機能

★ オートホワイトバランスの色味の向上
お気に入り森、若葉や草原などを撮るとき、ホワイトバランスがオートでも美しい自然の色味が写せます。色をつくるのが苦手な人は助かるし、自分色にカスタムする人の基礎トーンとしてもうれしいです。

★ 動画と静止画を切り替える単独スイッチ
お気に入り今までモードダイヤルに組み込まれていた動画への切り替えが単独で設置されたため、写真と同じ被写体を動画でも撮りたい時に切り替えが早くできるようになりました。

★ サイレントシャッター
お気に入りシャッター音が消える機能です。猫の寝顔や子どもが集中しているとき、卒業式や入学式など公共の場で音が気になるときに便利。連写にも対応しているので撮り過ぎに注意しましょう。

RF50mm F1.2 L USM

EOS R8と使いたい
このレンズは誰がどう撮ってもほんとうに素敵な空気感になる名機だと思うのですが、重さが約950グラムあるがゆえに使いこなせないこともあるよう。でもEOS R8はボディがかなり軽いので今まで断念していた人はぜひこの組みあわせで使ってほしいです。

RF24-50mm F4.5-6.3 IS STM

EOS R8とベストマッチ
50ミリがすきな人には特に使いやすいです。最短撮影距離が広角端では30センチと短いので可動域が広く感じます。光を受けた時の描写が美しくて、逆光が好きな私との相性がとてもよいです。24ミリも好きな画角なので、広い画で引いたときの受け止め方が印象的でした。なにより約210グラムと非常に軽いので、おもちゃのようですが、描画力はクリアでシャープです。

EOS R8

価格(オープン)
【ボディ】240,000円(税別) 【RF24-50 IS STM レンズキット】267,000円(税別)

撮像素子 約2420万画素 フルサイズCMOSセンサー
ISO感度 ISO100~102400
ファインダー 約236万ドット、倍率約0.7倍
液晶モニター 3.0型、約162万ドット
連写性能 約40コマ/秒(電子シャッター時)
AFエリア分割数 最大1053分割
記録媒体 SD/SDHC/SDXCメモリーカード(UHS-Ⅱ対応)
大きさ 約132.5(幅)╳86.1(高さ)╳70(奥行き)ミリ
重さ 約461グラム(バッテリー、カード含む)

●すずき・さやか
日常で空白になってしまう記憶にやわらかく焦点をあてた写真を発表している。また写真を暮らしに溶け込ませる活動で、鎌倉にAtelier Piccoloを営む。マルミ光機との共同開発でフィルターを製作。近著に『日常写真を楽しむノートブック』がある。

協力:キヤノンマーケティングジャパン株式会社