1月号 「Splash」太田洋之(東京/東京YPC)

1月号「Splash」太田洋之(東京)

――一瞬、何だかわからず、じっと見入りました。
立木 目の前の光景をありのままに切り取り、一瞥して「きれいだね」ってわかる写真が多いけど、ワンクッションあってわかりにくい写真もまた表現のうちのひとつ。今月の入賞作品の中で明らかに見る時間が長い写真だと思うよ。
――よく見たら画面上部は水面なんですね。
立木 通常、水しぶきを目立たせるには黒バックなんだけど、空が映り込んだことで空を見上げている写真にも思えたってわけ。水しぶきも写真的。日本語にしたら「バチャ!」か「ドボン!」か「ザブン!」か難しいけど、英語でスプラッシュとしたのはうまく逃げた(笑)。

キヤノンEOS7D MarkⅡ
EF70~200ミリ
F5.6・1/2000秒・ISO1600
キヤノンPIXUS PRO-100S
富士フイルム「画彩」プロ
東京都台東区・3月下旬,17:00頃

 

 

 

2月号 「自画像」藤元麻未(岡山/OYP)

2月号「自画像」藤元麻未(岡山)

――お風呂に入っている息子さんに呼ばれ、ドア越しにポーズを取る姿だそうです。
立木 なぜこれを推薦に選んだのかを考えてほしいね。タイトルと写っているものの飛躍は見る者が乗り越えるとして、面白さの「なぜ」を考えることにエネルギーを使うと、写真が面白くなると思うね。
――画面全体が粒子のようにざらついています。
立木 水滴なのかすりガラスか、と思っていると銀塩時代の粒子かなとも感じる。それにより前時代的なイメージになりデジタル時代の中では特異性を与えることになる。理屈で撮るよりも被写体との関係性の中で体が反応した写真。だから読み解こうという気持ちになる。一瞥して理解できることが写真力ではないってことだね。

ニコンD750
タムロンAF90ミリマクロ
F10・1/160秒・ISO800
岡山市・10月下旬,19:00頃

 

 

 

3月号 「囚われ」中原秀夫(岡山/吉備路写真クラブ)

3月号「囚われ」中原秀夫(岡山)

――透明人間に網で捕らわれているように見えたそうです。
立木 子どもは遊びの天才なんだよ。大人があれはダメ、これはダメというけど、規制緩和したらいいのに。自分だって子どもだったのにその時のことは忘れている(笑)。
――確かにそうですね……。
立木 言ってみれば、何でもない光景だよ。それを面白がれるかどうかが写真に影響してくるわけ。透明人間を感じたことで生まれた写真だね。惜しいのは子どもに重なったバイク。黒澤明監督の現場に行くと、役者の重なりを極端に嫌う。これもそうだね。主役が十分強いから、横にあっても気にならない。もう少し左から撮れば完璧だった。でも、そんな細かいことを超えて、惹かれる力がある!

ニコンD700
AFニッコール28~300ミリ
プログラムオート・ISO1600
玉野市・10月中旬,10:00頃

 

 

 

4月号 「双子」溝口健二(静岡/ニッコールクラブきらり東海道支部)

4月号「双子」溝口健二(静岡)

立木 双子の写真というとダイアン・アーバスや牛腸茂雄を思い出す。いずれも平行に並んだ写真なんだけど、絶妙に双子が前後しているよね。これがいいんだ。背景の屋根の雰囲気は令和から遡って昭和そのもの。俺が欲しいと思うほどの写真。
――背景に笑顔の人物がいますが……。
立木 写真って緩い現実をシビアな世界として表現する力がある。だから歩きながら「かわいいわね」と言う表情の脇役がなければもっと完成度が上がった。トリミングで外せたけど入れているってことは脇役としての役割を感じているかもしれないが……、これは夾雑物だ。でもこの双子の力はすごい。

ニコンD700
AFニッコール18~135ミリ
F13・1/800秒・ISO800
エプソンSC-PX5VⅡ
エプソン写真用紙クリスピア
浜松市・4月上旬,11:00頃

 

 

 

5月号 「モンスター」星川明美(奈良/ニッコールクラブみやこ支部,写団地懐社)

5月号「モンスター」星川明美(奈良)

――先月号でもっとすごいのを見たいとおっしゃっていましたが……。
立木 出てきたねぇ。すごいインパクト。今月はこの手の写真がすごく多かったけど、これが飛びぬけている。橋脚だなんてだれも思わないよね。ちょっと歯が抜けたモンスターが髪を振り乱しているようで面白いよ。アニメーションの世界だな。
――そういうふうにしか見えません(笑)。
立木 写真ってシャッターを切らないと写らないと言われるけど、被写体を見つけたときの気持ちがどうなのかってことが大事なんだよ。帽子をかぶった可愛い妖怪に見えてこちらの口元も綻ぶネ。

ニコンZ 50
ニッコールZ 16~50ミリ
F6.3・1/1600秒・ISO400
エプソンSC-PX5VⅡ
エプソン写真用紙絹目調
木津川市・3月中旬,15:00頃

 

 

 

6月号 「許容の距離」三上和義(神奈川)

6月号「許容の距離」三上和義(神奈川)

立木 こんなに長くなるの? 海岸は広いからできるんだろうけど、ちょっと驚くね。
――リードの伸びきる長さが犬に許された距離。人間の世界も似ています、と作者のコ
メントです。
立木 自由に生きているなんて言いながらも、みんな紐がくっついていて逃れられない人生を送っている。人間は必ず何かに所属していて、一番小さい単位は家族だけど、そこからコミュニティー、会社、国って広がっていく。この写真と照らし合わせると自由がないってことだな。リードオフマンは犬。飼っているつもりが引っ張られている、これもまた真実だね。

キヤノンEOS R
RF24~105ミリ
F8・1/80秒・ISO400
キヤノンPIXUS PRO-10S
キヤノン写真用紙絹目調
茅ヶ崎市・12月下旬,16:00頃

 

 

 

7月号 「楽しい道」川口善也(岐阜)

7月号「楽しい道」川口善也(岐阜)

立木 タイトルは「楽しい道」だけど道が楽しいわけじゃない。下り坂にいるから楽しくて、右側の二人は上り坂で苦しいはず。屁理屈みたいだけど、写真を読み解くとそう見える。それにしてもこの女の子が無邪気で屈託がなくて、自然な笑顔がいい。
――T画面奥へ抜ける道という舞台もいいですね。
立木 奥行き感が出ているよね。それだけにここを行き交う人は、いい役者となって写真を盛り上げている。そして人生には上り坂もあれば下り坂もあるってことをこの一枚から感じるね。ストレートな写真ってまっすぐ心に届いてくるから素直にいいね、と思えて強い。

キヤノンEOS7D MarkⅡ
EF-S18~135ミリ
F3.5・1/30秒・ISO320
キヤノンPRO-G1
ピクトリコプロセミグロスペーパー
長久手市・10月下旬,15:00頃

 

 

 

8月号 「真夏日」荒木ひろゆき(福島)

8月号「真夏日」荒木ひろゆき(福島)

――毎年、夏になると奥様と猪苗代湖で水浴びを楽しむそうです。
立木 仲のいいご夫婦だよね。
日焼け止めをしているんだけど白塗りが歌舞伎役者のよう。また黒帽子も不気味さを強調してくれる(笑)。さらには無理な角度で足を上げてくれている!
――主演女優賞ですね〜。
立木 ともすると奇妙な演出写真として見てしまうんだけど、真っ昼間の光が違和感を助長し、湖面と山と空といった素敵な舞台設定も魅力。寺山修司の「天井桟敷」を思い出す。アングラの匂いもあって非日常的なシュールに満ちている。奇特なカップルだね。

ニコンD500
AFニッコール18~200ミリ
F18・1/1250秒・ISO800
エプソンSC-PX5VⅡ
松本洋紙店絹目調
郡山市・8月中旬,14:00頃

 

 

 

9月号 「水鏡」林 邦良(静岡/全日写連御殿場支部)

9月号「水鏡」林 邦良(静岡)

――ネイチャーフォトとしては平凡なので、長い足を足し算したとのことです。
立木 平凡と言い切るところはすごいね。たしかに光のよっては平凡になってしまうし、類型を目にすることが多いからそう感じる。となると何か工夫が必要になるってことで、これはご自分が登場したってことかな。
――長靴を履いて農具を持つなど演出力も長けています。
立木 カメラを感じさせないようにちょっと無理な体勢ってのが感じられるけど、現場でぎりぎりの工夫をするのはいいね。ちょっと嘘っぽいところは富士山が逆さまのレトリックがいい。楽しんでいる感じがして、はやく自由に撮れる世の中になることを願うばかり。

ニコンD610
ニッコール28ミリ
F11・オート・ISO400
エプソンSC-PX1V
ピクトリコプロセミグロスペーパー
御殿場市・5月上旬,5:00頃

 

 

 

10月号 「不気味」中原秀夫(岡山/吉備路写真クラブ)

10月号「不気味」中原秀夫(岡山)

――中央は土手にある水抜きの穴だとか。
立木 なかなかこういうところには目が向かないよね。だけどそこに自分を写し込むことで作品になるわけだ。昨今、いままでのような撮影ができにくいなか、どんなものでも作品になるというヒントを与えてくれた。
――影を重ねて目、脳、涙をイメージしています。
立木これを見て脳を想像するあたりは自虐的な部分もあって、作者の心か体の片隅にあると思われる。一発で撮ったのか、試行錯誤したのかはわからないけど、もっともっと遊べるよ。脳をコンクリートのように硬くしたら、こうやっては撮れないよ。

ニコンD700
AFニッコール28~300ミリ
プログラムオート・ISO1600
浅口市・11月下旬,11:00頃

 

 

 

11月号 「アートな船体」芦屋けんいち(静岡/さわやかフォトクラブ)

11月号「アートな船体」芦屋けんいち(静岡)

立木 船体の傷が生け花に見える、さしずめ「船体流」っていう流派かな。船を係留するボラードが花瓶に見える。見たものを見たままに写すのも写真だけど、別の何かに見立てるのも楽しみのひとつ。
――上部に船体とわかるように入れたフレーミングも的確。
立木 「船体流」って伝えるのに役立った。焼津港というと第五福竜丸だけど、都立の展示館でボランティアをしている大学生が五輪の聖火ランナーとして走った。そういう思いを受け継いでいる姿に感動した。そうなるとこれが生け花ではなく聖火の炎にも見えてくる。写真の見方は見る人の気持ちで変わるってのもまた望ましいと実感する。

パナソニックLUMIX GX7 MarkⅢ
ズミルックス15ミリ
プログラムオート
エプソンPX-5V
エプソン写真用紙クリスピア
焼津市・3月中旬,12:00頃

 

 

 

12月号 「水槽を挟んで」井浪信太郎(埼玉)

12月号「水槽を挟んで」井浪信太郎(埼玉)

立木 上のほうに水面が見えるからじっくり見ればわかるけど、一瞥しただけだと水槽には見えない。だからエラを持った少女が水中にいるように感じる。さらにアザラシはおなかを向け、そこに手をかざしている瞬間に見えて、まるで調教師のよう。
――う日差しが降り注ぐ水槽ということですが、どこか不思議な印象です。
立木 画面上には怪しげな手が見えたり、右の岩は男性の顔に見えたり、この写真には不思議がいっぱい写っているまるで怪奇的水族館(笑)。写真ってこんな見方をするのだって楽しいもの。偶然だったとしても後付けで感じられたら、堂々と「必然でした」と言い切ればいい。

キヤノンEOS5D MarkⅣ
EF24~105ミリ
F5.6・1/125秒
エプソンEP-10VA
富士フイルム「画彩」プロ
東京都品川区・6月中旬,16:00頃