1月号 「可愛い赤ちゃん」池知 隆(高知)

1月号「可愛い赤ちゃん」池知 隆(高知)

――――インパクトがありますね。
立木 寄った写真のインパクトって被写体の力に頼るしかないんだけど、これはさらに背景の様子が薄っすらと見えていて、臨場感を伴っている。望遠ではなく広角側で寄った作戦が功を奏した。しかも、干物の開いた眼、女性の瞑った眼にウィットを感じます。――――ユーモアという方向ではないんですね。
立木 ユーモアってクスッと笑うことになるんだけど、これは対比の面白さに機智とか機転を感じる。うん、ユーモ
アでなくてウィット。もし女性が目を開いていたら記念写真になった。そのギリギリがインパクトに繋がっている。フカの赤ちゃんのへの字口が小言を言っているようにも見える。
富士フイルムX-T1・XF18~55ミリ・F5.6・1/160秒・ISO200・エプソンSC-PX5VⅡ・エプソン写真用紙クリスピア・高知県日高村・7月下旬,11:00頃

 

 

 

2月号 「移ろい」森江なおこ(沖縄/はてるまこうデジカメ教室)

2月号「移ろい」森江なおこ(沖縄)

――――焼き物で有名な壺屋に猫が一匹迷い込むところ。
立木 立派な登り窯だよな。年季の入った感じが写真に深みを与えている。でも一番感じるのは、弱そうでいて実はもっとも強い植物の存在。窯ができたころなんて生えていなかっただろうに、ここまで繁殖したわけだ。
――――右上にチラッとビルが見えます。
立木 さりげなく入れたのは時間の流れを意識させるから有効だね。ジャンプしている猫の動きは速いはずなのに写真にすると魔法がかけられてそのまま動かなくなったようにも見えて、目を引くよ。

ニコンD750・AFニッコール35ミリ・F4・1/800秒・ISO125・那覇市・4月上旬,11:00頃

 

 

 

3月号 「水浴び」伊藤広志(大阪/写団くろねこ)

3月号「水浴び」伊藤広志(大阪)

――――稽古を終えて水を浴びる若い力士です。
立木 初場所で幕尻から優勝して話題になったけど、人間って7割が水でできている。99・974度で沸騰し、摂氏4度で最高密度になり、0度で凍結するってのが自然での摂理。そして我々は水なしでは生きていけない。
――――遅めのシャッター速度で水が線を描いています。
立木 高速で止めるよりこのほうが肉眼の印象に近い。力士のブレも水の勢いを強調させる。相撲には力水とか水入りって言葉があって水との関わりがありそう。そのくらい水って大事なのかもしれないね。この大きな体も7割が水だと思うと水のぶつかり合いに感じてくる(笑)。
ニコンD610・AFニッコール18~35ミリ・F8オート・エプソンPX-5600・松本洋紙店絹目調・堺市・3月中旬,11:00頃

 

 

 

4月号 「突風」吉川 稔(奈良/ニッコールクラブみやこ支部)

4月号「突風」吉川 稔(奈良)

―――強風の日だったそうで、仕上がりのイメージを描いて撮ったとのことです。
立木 順光で撮ったことによる力強さがあるよね。しかもカメラマンの影も映り込む。これが女性に重なっていればリー・フリードランダーの世界になった。
――――撮影の後、お礼をしたそうです。
立木 街中の撮影は撮りにくくなっているけど、カメラは武器ではないだけに、気を付けないといけない時代ではある。一瞬を掴むのが写真の醍醐味だけど、突風の感じがよく出ている。予測していることでとらえられたチャンスだったというわけだ。
オリンパスPEN-F・Mズイコーデジタル7~14ミリ・F13・1/400秒・ISO640・エプソンPX-5V・エプソン写真用紙クリスピア・東京都・6月上旬,16:00頃

 

 

 

5月号 「まなざしの行方」高橋一郎(大阪/写団くろねこ)

5月号「まなざしの行方」高橋一郎(大阪)

―――全く違うところでとらえた写真で組にしています。
立木 上下ともに眼差しを共通項にして組んでいるんだけど、洋傘と和服という対照的な世界。季節だって違う。それでも組写真って成立する。この部門には組写真の応募も多いけど、どれも同じ場所で、連続で撮ったようなものばかりで内容が全くない。
―――傘の下に足が見えます。
立木 この写真のポイントだよな。和服の後ろもなんだか人の気配がするし。そういう組み方を楽しんでほしい。
―――連載「風の写心気」がまさにそうですよね。
立木 写真って自分で語るものじゃないから、見る人の感性にお任せするけど、組写真の面白さを読んでもらえると嬉しい。
キヤノンEOS5D MarkⅣ・EF24~105ミリ・F11オート(上)ISO800/大阪市・7月中旬,13:00頃 (下)ISO640/京都市・1月中旬,11:00頃/キヤノンPIXUS Pro9000 MarkⅡ・エプソンフォトマット紙

 

 

 

6月号 「突風」喜舎場和広(愛知)

6月号「突風」喜舎場和広(愛知)

―――カメラマンが多く集まる鯛祭りでの撮影です。
立木 有名な祭りでも自分の視点を探そうとしているんだね。しかもこのファッションに違和感がありながら撮ると新しいものを手にすることがある。
―――ローアングルにして人物を空に抜いています。
立木 空抜きの人物は明快。今やデジタルカメラのバリアングルモニターによって楽々撮れるようになった。小津監督のローアングルがオマージュとして蘇るね。たった1メートル視線が下がるだけでこれほどイメージが変わるというのを皆が認識し始めた。

ソニーα6400・E10~18ミリ・F4.5・1/500秒・ISO100・エプソンSC-PX5VⅡ・松本洋紙店写真用紙・愛知県南知多町・7月下旬,16:00頃

 

 

 

7月号「おじいちゃんの横笛」松川元紀(静岡/浜松写友会)

7月号「おじいちゃんの横笛」松川元紀(静岡)

――――おじいちゃんが昔覚えた横笛をみんなに聞かせているところです。
立木 こういう家族の写真ってだんだん撮れなくなってきている世の中。懐かしさなのか、もう憧れのような感じなのか、いずれにしても目を引くよね。他人のご家族を撮らせてもらっているとは思えないくらい輪の中にいるようで臨場感もあるな。
――――それぞれの表情もいいですよね。
立木 おじいちゃんの手つき、表情、そして家族の楽しそうな雰囲気、もう嫌みのない平和すぎるくらいの写真。コロナ以後、こういう世の中に戻ってほしいと望むよね。
ニコンDf・AFニッコール24~120ミリ・F8・1/250秒・ISO320・エプソンPX-5V・富士フイルム「画彩」プロ・豊川市・7月下旬,16:00頃

 

 

 

8月号 「舌出し…」宮城寛之(神奈川/写団UZ)

8月号「舌出し…」宮城寛之(神奈川)

―――何気なく見上げたら、舌のように見え、お茶目な天使を想像したとのことです。
立木 審査の際は、撮影意図はわからないんだけど、タイトルに「…」があることから、55年前の私の拙作を意識しているのかとも読めるんだけど、歌舞伎の世界にも舌出三番叟ってのがあって奥が深いもの。真っ白なコンクリートの上に舌を出し、濃い影と黒く落とした空によってその存在を強調した。
―――確かに舌にしか見えなくなってきました。
立木 斜めにしたことで背景の住宅の印象が弱まり、舌のほうに目線が行くよね。説明する必要はないけど一瞥して「舌」に見せる茶目っけはとっさの賜物。崖の上の白い家が不気味で良い。
リコーGR・GR18.3ミリ・F4・1/2000秒・ISO100・エプソンPX-5V・月光ブルーラベル・横須賀市・3月下旬,14:00頃

 

 

 

9月号 「暑い日」岡田史郎(兵庫)

9月号「暑い日」岡田史郎(兵庫)

―――祭りで出会った頬被りの犬。暑いのでタオルは水で冷やしてあったとのこと。
立木 7月はなかなか太陽が出ず、涼しい日が続いたけど、5月の頃はどれだけ猛暑になるかと思ったもんな。飼い犬って、可愛がっているとご主人様にされるがままになって嫌がらなくなる。それがいいのかどうか、お犬様に聞くことができないのが残念。
――――スクエアにして主役を強調しています。
立木 1対1の画角はまとめやすく安全パイ的な選択になることがある。真四角の中で四苦八苦することで、力のある写真になるんだ。光のとらえ方がよくて、表情の機微が伝わってくる。ちょいと出した舌が写真に変化を与えて、決定打となった。
オリンパスOM-D E-M1・Mズイコーデジタル12~40ミリ・F4.5オート・ISO200・エプソンSC-PX5VⅡ・月光ブルーラベル・大阪市・5月上旬,13:00頃

 

 

 

10月号 「侵入者」松尾秀夫(愛知/全日写連,浜松写友会)

10月号「侵入者」松尾秀夫(愛知)

立木 写真って現場にいないと撮れないし、偶然が必然のチャンスとして巡ってくることがある。それを焦らずにきちんと撮れるのかが大事で、一方で興奮しすぎると冷静な目が持てないから、経験がものをいうときもある。
――――とはいえ、奥のシロクマ、真ん中のアオサギ、これだけ
で奇跡の組み合わせですが、さらにもう一つの手が。
立木 この瞬間が現れたときの驚きと、撮ったあとの満足げな顔が思い浮かぶけど、これだけ揃うことはそんなにない。シロクマの両手をついて謝っているような姿と何かを見つめるアオサギ、それぞれが役者のようでいいよね。水面への映り込みが臨場感を高めている。ただ、もう少し広く撮ったらどうだったのかな、と思うけど、一瞬の組合せをよくとらえたね。
ニコンD750・AFニッコール24~85ミリ・プログラムオート・ISO400・エプソンSC-PV5VⅡ・富士フイルム「画彩」プロ・豊橋市・6月上旬,14:00頃

 

 

 

11月号 「擬態中」フジタカツミ(東京)

11月号「擬態中」フジタカツミ(東京)

―――頭を引っ込め擬態しているような姿に惹かれ、「動かないで!」と念じながら撮ったそうです。
立木 一瞬、何の写真? って思うかもしれないけど、金網の長方形と座っているタイルの正方形が、服装と合致して隠蔽的擬態だよね。尺取虫が枝に似るってのと一緒、それを人がやっているってわけ。
―――柔軟な視点がないと通り過ぎますよね……。
立木 SF的に言えば、金網とタイルがシャツの柄を模倣している逆転の世界。それを面白いと思う発想と、少しの工夫で写真になる。頭を下げていてくれたことで擬態が完成した。もうこの人はうつむく以外にない(笑)。写真にするとこの姿勢で一生止まってしまうから、面白い。
ソニーRX100Ⅶ・24~200ミリ・F8・1/50秒・ISO6400・エプソンEP-50V・エプソン写真用紙絹目調・東京都杉並区・6月上旬,19:00頃

 

 

 

12月号 「好奇の目」吉川 稔(奈良/ニッコールクラブみやこ支部)

12月号「好奇の目」吉川 稔(奈良)

立木 こんなまだら模様のロバがいるんだな。ロバといったら世界的に有名なのはドン・キホーテに出てくるロシナンテで、愚鈍な動物だから、こんな目をするとは思わないよね。冒険に出ることもなく、この中で一生を過ごすのかな。そう思うとちょっと恨めしそうな目に見えて面白い。
―――目にクローズアップする方法もありますかね?
立木 全身だと説明過多になることもあるから難しいところ。近寄って目を活かす方法と広く撮って目を見せる撮り方、どっちもできる場面。背景の空の大きさで環境が伝わるし、少し傾いた不安定さも目の力を強調させるのに役立っているから、これでよかったってわけ。
リコーGRⅢ・GR18.3ミリ・F4.5・1/320秒・ISO100・エプソンSC-PX5VⅡ・松本洋紙店絹目調・自宅付近・5月下旬,16:00頃