第2回 星空撮影の設定&実践

今夜、星を見に行こうか。なんて若いカップルだったらあま~い表情で言いそうなものだが、フォトグラファーが同じ言葉を口にしたときには気合の入った顔をしているだろう。 星空の撮影といえば以前は特殊な撮影のひとつだったが、今はデジタルカメラの高感度化によって身近な被写体となり撮影するフォトグラファーが非常に増えている。特に地上の景色とからめて星を撮影する「星景写真」が人気を集めている。暗い夜空に無数の星々がきらめくさまは美しく、日常の喧騒を忘れられるような静寂が魅力だ。 さて、手軽に撮れるようになってきた、とはいうもののカメラとレンズがあれば簡単に撮れる、というものでもない。今回は星空撮影の魅力とともに方法や注意点を紹介したいと思う。

星の情報

星が撮りやすい条件を知る:光害がない/空が広い/月の影響が少ない/空気が澄んでいる/快晴など

空が晴れて星が見えていれば星は撮影はできる。だが写真としてきれいに撮るためには良い撮影環境が必要になる。まず、第一に晴れていること。どんよりと曇ってしまっては星なんてまったく見えないので天気予報はこまめにチェックしておこう。その次に光害の少ない場所を選ぶこと。街の光が夜空を明るくしてしまう光害は見える星の数を少なくしてしまう。また明るい月あかりも星を見えなくしてしまう原因のひとつ。撮影のタイミングはなるべく新月前後をねらうといい。また晴れていることに加えて、空気が澄んでいるとさらに星の輝きが増し、見える星の数が多くなる。よって、星の見え具合だけで考えれば冬がもっとも撮影に適していることになるが、冬の夜の冷え込みは半端ではなく冗談ではなくカメラも撮影者も凍る。なので星撮影の入門としては写真映えのいい天の川があり、夜が過ごしやすい夏〜初秋がいいだろう。

撮影場所の決定

自分で決める/有名な場所にいってみる/一緒に撮りたい風景を考える など

星をきれいに撮るには場所のセレクトも重要だ。まず前述のとおり光害の少ない場所、つまり山奥や高原、海沿いなど街明かりが届きにくい場所がいい。特に標高の高い山は雲の上に出ることも多く、星を見られる確率は高くなる。最近ではインターネットで星の見られるポイントを紹介しているサイトも多く、そうした情報を参考にするのもいいだろう。ただし、星だけを撮影するポイントが星景写真に向いているとも限らない。星景写真は地上の風景にも魅力がなければならないからだ。そのため風景を基準に考えて場所を選択するのもいいだろう。とはいうものの夜は真っ暗であるから風景のほうはシルエットでもかっこよく描ける被写体を選択するといい。

撮影の道具

  • カメラ
  • 広角レンズ
  • 三脚
  • レリーズ
  • ライト
  • フィルター
  • 雨具
  • レンズヒーター(結露対策)
  • 白金カイロ(結露対策、冷え込み対策)
  • スマートフォン(コンパス、星座アプリ)
  • ソフトフィルター

 カメラとレンズ以外に星空撮影に最低限必要なものは三脚、赤色灯のあるヘッドライト、コンパス、星座早見表だ。コンパスと星座早見表はスマートフォンのアプリで代用できる。加えてブレを防ぐケーブルレリーズやピント位置が決まったときにピントリングを固定するマスキングテープ、レンズの結露を防ぐレンズヒーターや星を強調するソフトフィルターもあるとなお良い。
撮影中のヘッドライトの使用は周囲の撮影者への配慮として必要最低限とし、もし使う場合も赤色灯を使うようにしよう。また、明るい光を目に入れてしまうと星の光が見えなくなるため星の暗さに目を慣らすためにも赤色灯を利用するのがいいだろう。

明るいうちにロケハンしよう!

夜の撮影は日中とは違い危険が伴う。足元がよく見えず思わぬ事故が起こりえるからだ。なので撮影ポイントを決めたらあらかじめ日中のうちに下見をしておくのがベストだろう。また日中にロケハンしておけば星と一緒に撮る被写体の位置関係が確認できるので画柄も想像しやすくなる。

設定

現場で戸惑いがちなカメラ設定

 

撮影モード
撮影モードはマニュアルモード(M)が良い。夜空は明るさがほぼ一定なことに加え、F値やシャッタースピードは一度決めてしまえばそのままの設定でフレーミングだけ変えながら撮影すれば効率がいいからだ。
絞り
絞りは基本的に開放F値〜1段絞り程度で撮影する。とにかく夜空は暗いので絞ってしまっては星が写らない。ただし多くのレンズは1段絞りくらいでレンズ収差の多くが改善するので開放F値に余裕がある場合は1段程度絞っておくのが吉。よって少し絞ることを前提に考えると大口径の広角単焦点レンズが最もおすすめということになる。
シャッター速度
星の撮影では大きく2つの表現がある。星を止めて撮影する場合と、星を流してその軌跡を撮影する場合だ。星を止める場合はレンズ焦点距離にもよるが、10秒前後のシャッタースピードになるように心がけたい。星を流す場合はさらにバルブで一発撮りか、比較明合成を前提とした20〜30秒の露光で連続撮影して後にPCで合成をおこなう撮影方法の2つがある。
ISO感度
ISO感度の調整はF値、シャッタースピードを決めたあと、適切な露出が得られる感度まで上げていく。星の見え具合で感度はISO1600〜6400程度まで大きく変化する。近年のカメラは高感度でも画像の荒れが少なくなっているので表現優先でしっかりと上げていきたい。バルブで流す場合はISO400程度でも十分。
ホワイトバランス
ホワイトバランスはケルビン(K)を指定するマニュアルにするといい。太陽光やオートなどでは星空がアンバー気味になってしまうので2600K〜3400Kあたりを目安に調整していき好みの色味を探そう。
ピント
星撮影でもっとも慣れが必要なのがピント合わせだ。現代のカメラではまだAFでのピント合わせはほぼできないのでマニュアルフォーカスでおこなう。はじめ無限遠にピントリングを回して、ライブビューで一番明るい星を拡大して光が一番小さくなるようにゆっくりとピントリングを動かす。カメラによってはライブビューの見え具合を明るくブーストしてくれる機能もあるので活用しよう。
フィルター
フィルターはなしでも全く問題ないが、ソフトフィルターを使うと明るい星の光が拡散され大きな光となって見栄えが良くなる。ただし光の弱い星は反対にあまり見えなくなってしまうので、満天の星空というイメージではなくなる。星座などを目立たせるような用途で使うといいだろう。
保存形式
星の撮影ではRAW+JPEGで保存するのがおすすめだ。星撮影は必然的に高感度を使用するのでJPEG撮って出しよりもRAW現像ソフトで細かく調整したほうが思い通りの仕上がりになることが多いからだ。またRAW現像ソフトが後にアップデートされれば、さらにノイズリダクション機能が向上し現在よりも良い仕上がりが得られる可能性もある。

手順

現場は暗いため操作に慣れが必要

三脚をセット
10秒前後の露光で星を止めて撮影する場合は三脚の高さはアイレベルでさほど問題ない。風のある日や、バルブ撮影では脚は伸ばさず一番低い状態でセットすることでブレを抑えられる。ストーンバッグで重さを増すこともブレに対して有効だ。しかし雪の上では三脚を重くしすぎるとゆっくり沈んでブレを生むので注意が必要だ。
構図/フレーミングを決定
構図やフレーミングは星空を大胆に広く開放的に写し込もう。そこに地上の風景をバランスよく配置する。風景がシルエット気味になるため被写体の形に注意してフレーミングを決めよう。また構図を決める際、星の配置にも気を配りたいところ。星座を確認し、主役となる星座を意識しておくとより良い作品になるだろう。魚眼レンズを使う際は画面周辺部に余計なものが写りがちなのでいつも以上によく確認するように。
画像確認
カメラの背面モニターは夜に見ると非常に明るいので、一見しっかりと露光できているように感じてしまうが多くの場合露出不足になる。モニターの輝度を下げるだけではなく、撮影画像のヒストグラムをしっかりと確認しよう。ヒストグラムは左側3分の1〜4分の1くらいの位置に山のピークが来るくらいまで露出が得られるように調整しよう。

比較明合成

シャッター速度の項目で少し触れたが、星の軌道「日周運動」を描く撮影方法に「比較明合成」がある。コンポジット撮影とも呼ばれバルブ撮影に比べて写る星の数が多いのが特長だ。比較明合成とは2枚以上の画像を重ね、比較して明るい部分のデータを残すように合成していく処理のこと。明るい星は夜空よりも明るいため星の動きだけが夜空にその軌跡を伸ばしていくように合成されていく。星が多く写るメリットの他にも、連続撮影中に一瞬車のライトが地上の風景を照らしてしまったなどのトラブルがあっても、そのカットだけを除外するかその一枚の地上だけマスクを掛けるなどの処理をすれば写真は完成させることができる。

山奥の道の駅で撮影。ちょうどよく低い霧が流れて街灯の光が木の背景をうまく演出してくれた。街灯はシルエットでしか描けない地上の風景のアクセントになってくれるので意外と活用できる。また星撮影の際は特別な表現意図がない限りピント位置は星に合わせる。ピントを地上の風景に合わせてしまうと明るい星以外は闇夜に消えてしまう。

F2.8・6秒・ISO5000

榛名山の背景に星を降らせた。20秒露光を98枚比較明合成すると多くの星の軌跡をとらえることができた。星の回っている様子をよりわかりやすくするために、この比較明合成では画像レイヤーではじめの一枚を透明度1パーセントにして最後の1枚で100パーセントになるように段階的に調整している。

F2.8・20秒・ISO3200 *コンポジット撮影(98枚合成、合計約30分)

河津桜のライトアップとオリオン座をともに撮影した。ライトアップの光は強く、普通に撮ってしまうと星の光が負けてしまうためソフトフィルターを使って星の存在感を強めた。

F2.8・5.3秒・ISO1600

今浦友喜(いまうらゆうき)
1986年埼玉県生まれ。風景写真家。雑誌『風景写真』の編集を経てフリーランスになる。自然風景、生き物の姿を精力的に撮影。雑誌への執筆や写真講師として活動している。 カメラグランプリ2018選考委員