1月号 「海をわたる」井浪信太郎(埼玉)

1月号「海をわたる」井浪信太郎(埼玉

【選評】デザイン性に富んだ美しい画面構成に引き込まれました。心象風景ゆえに大きな展開はありませんが、この光景を見たときに寄せては引いていく波の音が脳内に流れ、自然と安らいでいく自分の姿がありました。それをそのまま高く評価しましたが、こういうイメージは頭で考えて撮影や構成をするとあざとさが出てしまうもの。作者自身が被写体に惹かれ、自然とシャッターを切り、その作品群を見て共鳴する人がいる。疲れているときに聴くと癒されるヒーリングミュージックのような作品です。しかし、不思議なことにひとしきり安らぐと今度は各作品にある主題の存在が妙に気になり、夢見心地から現実へと戻され、別の印象が広がっていく面白さもあります。良い作品は4秒以上目が止まりますが、本作も噛むほどに楽しめますね。
キヤノンEOS5D MarkⅣ・EF24~105ミリ・①②F11③④F8・①③1/1000秒②1/800秒④1/2000秒・ISO400・エプソンEP-10VA・ピクトリコプロセミグロスペーパー/横須賀市・10月上旬,11:00頃

 

 

 

2月号 「生命の源」辻 慶二(高知)

2月号「生命の源」辻 慶二(高知)

【選評】ややもするとグロテスクになりそうな被写体を美しい世界へと変貌させる技術の高さに感心しました。自然界のサイクルをテーマにすると撮りかたや組みかた、仕上げ次第では暗く地味なネガティブ作品になりがちです。そこを踏みとどまらせたのは作者独自の観察眼。パッと見で主題を明確にし、繁茂するアオミドロをあえて意味を持たせない背景として利用。鮮やかなグリーンで爽やかさを演出しつつ、大小の泡をジャブのように打ち続けることで脳内に刺激を与えていく。生息環境を見せる引きカットを入れず、アオミドロの世界で押し通したテーマ性の追求や④魚への展開でイメージを広げたことも高評価の要因となりました。「アオミドロ」は響き的には小説のタイトルっぽく、さらなる作品展開も期待できそうですね。
キヤノンPowerShot S110・5.2~26.0ミリ・①②③F4・1/250秒④F5.9・1/125秒・ISO80・キヤノンPIXUS PRO-1・キヤノン写真用紙光沢ゴールド/須崎市・3月上旬,14:00頃

 

 

 

3月号 「宇宙の旅」辻 慶二(高知)

3月号「宇宙の旅」辻 慶二(高知)

【選評】「何これ」と思わず叫んでしまった衝撃作。小さな子がブツブツ言いながら一人遊びを楽しむように作者の脳内に見えた宇宙空間を映像化したのが本作です。いざそれらを映像化しようとしても、多くの場合、単発的なイメージは浮かんでも組写真で表現できるほどの枚数を揃えるのは至難の業。アイデア倒れとなり、お蔵入りするのが関の山でしょう。しかし、作者はかつてどこかで見たようなシーンを見事に身近な被写体で再現することに成功。モノクロ化により現実感をなくし、想像力を掻き立てる工夫をしました。ひとしきり興奮したあとに冷静に本作を見返すと「一体誰が見ていた視点なのかな。①は別の宇宙船を目撃したのでは」と思った途端にまた鳥肌が立ち、作者と同じ宇宙を旅していました。
キヤノンEOS5D MarkⅡ・EF16~35ミリ・①③F8②F16④F22・①②1/100 秒③ 1/200 秒④ 1/60 秒・① ② ISO400 ③ ISO100 ④ISO1600・キヤノンPIXUS PRO-10S・キヤノン写真用紙光沢ゴールド/須崎市・11月中旬,15:00頃

 

 

 

4月号 「サクラ」髙木博規(愛知)

4月号「サクラ」髙木博規(愛知)

【選評】サスペンス映画の印象的な場面を切り取ったかのような作品構成です。吸い込まれるように拝見しました。「訳を聞こうじゃないか」は寅さんの名ゼリフですが、桜の咲く頃に何があったのかを想像するのがこの作品の楽しみかた。構成は①見る側を釘付けにする花越しの強い視線。②汚れたものを落とす手水シーン。③神社の幟の前で喪服に桜色の日傘をさす全身カットと3作品ともに「ワケあり」風なご婦人の眼や所作、首の傾げ具合などの思わせぶりにハラハラドキドキする仕掛けになっています。無駄を削ぎ落としたカット割りの如く、リズム良く次のシーンへ繋いでいる構成が出来過ぎのようですが、??はないので見事と言えるでしょう。妄想は多いほど作品づくりを助けてくれます。
キヤノンEOS5D MarkⅣ・プラナーT*50ミリ・①③F1.4・1/8000秒②F4・1/1600秒・ISO200・エプソンSC-PX5VⅡ・ピクトリコプロセミグロスペーパー/名古屋市・4月中旬,10:00頃

 

 

 

5月号 「隠れ花」野口幹生(神奈川/風景写真 大津塾)

5月号「隠れ花」野口幹生(神奈川)

【選評】身近な被写体で見る側の好奇心を誘い、黒バックで主題を引き立てるアプローチが功を奏しました。季節感をもたせたことで印象に変化を与え、主題の配置を3作品それぞれ変えて視点誘導。①から③まで左から右に見る場合に波状「~」の流れを作っていることもよく考えられています。本作のように時間をかけて作品制作(構成)する場合、何の思想もなく被写体ごとにアプローチを変えてしまうと最終的にうまくまとめることができません。作者の中に「こう撮るんだ(私はこう見ている)」という確固たる信念がなければ、いくら時間をかけてもイメージがばらついてしまいます。この3作品を見る限り作者にブレはなく、さらに撮りこむことで個展開催も夢ではないでしょう。
ソニーα7RⅢ・FE 24~70ミリ・PL・①②F22③F13・①1/200秒②1/80秒③1/160秒・ISO3200・エプソンEP-10VA・エプソン写真用紙クリスピア/川崎市・①11月下旬,8:00頃②2月上旬,10:00頃③7月下旬,10:00頃

 

 

 

6月号 「待つこころ」井浪信太郎(埼玉)

6月号「待つこころ」井浪信太郎(埼玉)

【選評】間の取り方、主題の大きさ・配置、すべての作品のフレーミングが秀逸です。「開けて欲しい」や「中にいる仲間や飼育員の行動が気になる様子」が作者コメントを読まなくても伝わってくるのは写真表現力の高さに他なりません。それぞれのアピールの仕方(手、顔、鼻、全身)を狙うのはシャッタータイミング、動物行動学的にも興味深いですが、飼育動物ごとに扉の形状に違いがあるのも「動物園の楽しみ方」として飼育員さんが見て欲しいこだわりポイントですよね。シンプルな作品ほど画面内の情報を頼りに何かを読み取ろうとしますが、見る側の習性すら巧みに利用してしまうのも作者の持ち味。③ゾウだけ顔をチラ見せしているのも想像力の煽り方、構成順として巧みでした。いろいろな意味で嫉妬した作品です。
キヤノンEOS5D MarkⅣ・シグマAF100~400ミリ・F8・①1/1000秒②1/250秒③1/2000秒④1/1250秒・ISO800・エプソンEP-10VA・ピクトリコプロセミグロスペーパー/①②④千葉市③豊橋市・①②④2月中旬③1月上旬,12:00頃

 

 

 

7月号「タワマンの戦士達」友光秀男(東京)

7月号「タワマンの戦士達」友光秀男(東京)

【選評】シンプルと細密の対比が最高にクール。工事現場の俯瞰写真ですが、狙いが違うことで「錯視」というのか、ちょっと不思議な感覚に陥りながら作品に惹き込まれていきます。①はハイコントラストな光に浮かぶ工夫と影。シルエットで想像力を掻き立てつつ、巧みな空間構成で余韻を引き出しています。②は工事中のビルを見上げている錯覚を起こさせながらもパンフォーカスで全体と細部を見せることでスケールと緊張感を描き、①とバランスよく対比させています。モノクロ化することで色情報を省き、ストレートに本質を見てもらうよう仕向けているのも表現として成功しているでしょう。ドイツ人は構造好きで工事現場があると黙って眺めているとテレビで観たことがありますが、作者にもその素質が十分にありそうですね。
キヤノンEOS Kiss X10・①タムロンAF18~400ミリ②タムロンAF70~200ミリ,2×・F11・①1/400秒・ISO100②1/250秒・ISO200/東京都江東区・3月下旬,15:00頃

 

 

 

8月号 「幸運の守護矢」島岡章一(長野/ニッコールクラブいいだ支部,飯田写友会)

8月号「幸運の守護矢」島岡章一(長野)

【選評】単写真でも通用する②笑顔(クローズアップ)が全てを物語っています。他の作品とは距離感を変え、さらに不特定多数から「特定の人物」へと視点を切り替えることでメリハリをつけ、組写真の芯を作っています。主役ありきの行事だけにそこをいかに表現するかが評価の分かれ目です。構成はオーソドックスに時系列に並べていますが、①ことの始まり、緊張感、②喜び、緊張からの解放、③粛々と行われる儀式の様子で再度緊張感を描き、④主役がその後どうしたのか、見る側の疑問に答えるイメージで静かにフィニッシュしていく抑揚のある見事な流れです。それらを支えているのは的確な撮影ポジション、迷いのない構図、狙い定めたシャッタータイミングによる写真力。経験値の高さが遺憾なく発揮された作品でしょう。
ニコンD700・AFニッコール24~120ミリ・UV・F8・① 1/500 秒②1/640 秒③ 1/320 秒④ 1/1000 秒・①② ISO200 ③ ISO400 ④ISO800・①②④三脚・エプソンPX-5002・松本洋紙店絹目調/長野県阿智村・2月上旬,12:00頃

 

 

 

9月号 「だれたー!」大薄順子(鹿児島/鹿児島フォトサロン,二科会写真部鹿児島支部)

9月号「だれたー!」大薄順子(鹿児島)

【選評】キャラクターが立っていますね。「この人でないと務まらない!」と思わせる見事な名役者ぶりです。本人も期待されていることを自覚した上で演じているようですが、周囲の人たちもあたたかい眼差しでそれを受け入れ、一挙手一投足を楽しみにしているのが伝わってきます。被写体の個性が強いと撮影者は撮らされてしまうことが多いですが、作者は撮り慣れているのでしょうね。冷静に然るべきポジション、然るべきシャッタータイミングで撮影しています。構成、展開も飽きさせず、つかみからオチに至るまで実に良い流れで組んでいます。演者と心を通じあわせ、1枚1枚の作品の完成度を高めたからこそ構成もピタリと気持ちよく決まるのでしょう。タイトルとリンクする④激戦後の表情に心地よい余韻が広がります。
①③④ニコンD7000・AFニッコール18~140ミリ②オリンパスOM-DE-M5・M.ズイコーデジタル12~50ミリ・①③④F9オート(①-0.7補正・1/1000秒③-0.7補正・1/2500秒④-0.7補正・1/1600秒②F8オート(+0.3補正・1/200秒)・①③④ISO800②ISO200/いちき串木野市・8月上旬,10:00頃

 

 

 

10月号 「ウニ作の平和な時間」松浦昭宏(静岡/キヤノンフォトクラブ静岡,全日写連)

10月号「ウニ作の平和な時間」松浦昭宏(静岡)

【選評】どれも人物との距離の取り方がよく、レンズワークが抜群に上手いです。「こう撮るんだ」という確固たるイメージを基に然るべきポジションからレンズを向けているのがうかがい知れます。内容は職人をベースにしつつ、プライベートショットや休憩シーンも見せることで、主役の人間味を描いています。「ウニ作って誰」と思わずツッコミを入れたくなる個性的なタイトルで緊張感を緩和する手法もなかなかの策士。一言で表すとすべてにおいて「間」が良い作者。ウニ作は主役の陶芸家と思っていましたが、飼っているカメだったとは何とも楽しめるサイドストーリーですね。それらも含め、文章とともにまとめると最高のアルバムが出来上がりそうです。作者ほどの高いレベルがあれば個展開催も夢ではないでしょう。
①③キヤノンEOS5D MarkⅡ②キヤノンEOS5DsR④キヤノンEOS5DMarkⅣ・①③④EF16~35ミリ②EF70~200ミリ・UV・①F6.3・1/15秒・ISO1250②F3.5・1/400秒・ISO2500③F13・1/160秒・ISO320④F14・1/15秒・ISO1250・キヤノンPIXUS PRO-100・キヤノン写真用紙ラスター/浜松市・4月上旬~5月下旬,15:00~16:00頃

 

 

 

11月号 「仮面劇」西尾朝也(東京)

11月号「仮面劇」西尾朝也(東京)

【選評】コロナ禍でマスクをした人たちで不安を描く作品はたくさん見てきましたが「マスク越しの風景」で視点を変えたのは面白い着眼点でしたね。写真のアプローチはストレートに狙う、ワンクッション挟む、それ自体を写さずに想起させると様々ありますが、ひと捻りを加えることで個性的な表現が生まれることは確かです。置かれた環境を自分なりの解釈で作品化する試みは作者の中にある作家性と言えるでしょう。高い評価をしていますが、まだまだ伸びしろのある表現。マスクが破れることでダイビング中のエア切れにも似た息苦しさや死と背中合わせの精神状態、そこから抜け出す強さ、抜け出した後の安堵感を描くなど展開を考えながらブラッシュアップすると他の追随を許さない表現になるかもしれません。
キヤノンEOS R・EF100ミリマクロ・①F4.5②F8③F3.5・①②1/25秒③1/15秒①②ISO800③ISO200・三脚・キヤノンPIXUS PRO-100・ピクトリコプロホワイトフィルム/国分寺市・7月下旬,17:00頃

 

 

 

12月号 「シニアカップル『ほのぼの』」島岡章一(長野/ニッコールクラブいいだ支部,飯田写友会)

12月号「シニアカップル『ほのぼの』」島岡章一(長野)

【選評】魅せどころを意識した構成が良いですね。アプローチの被りがないことで1枚1枚の内容に引き込まれます。シニア層(自分の親世代)がこのように日々楽しそうに謳歌しているのを見るだけでなんだか安堵します。①焼き芋屋が隣にある特等席を陣取って花見する抜け目なさ、「意外性」からの始まりで見る側の関心を一気に引き寄せています。②お孫さんの七五三のお供でしょうか。二人の微妙な距離が想像力を高めます。③テレビの街角インタビュー風のカメラアングルと二人の視線、ファッションに心が和みます。④ほのぼのしたイメージから一転、現実に戻されることであれこれ考えさせる余韻のある終わり方。作者は1年を通じて作品・セレクト・構成と素晴らしく後半にかけての集中力はさすがでした。年度賞おめでとうございます。
①②ニコンD800③ニコンD700④ニコンD300・①②③AFニッコール24~120ミリ④AFニッコール70~300ミリ・UV・①②③F11・1/250秒④F5.6・1/320秒・①ISO2000②ISO2500③ISO1800④ISO400・エプソンPX-5002・松本洋紙店絹目調/①東京都目黒区②鎌倉市③平塚市④十日町市・4月~11月上旬,11:00~15:00頃