2019年度 組写真の部  選評:清水哲朗

第1位     
加藤真希(三重/愛写道,日本リアリズム写真集団)

「街」10月号推薦

あんなことやこんなことが煩雑に入り組んでいる街中。カオスと文字化するのは簡単ですが、写真で具現化するのは意外と難しいもの。①のハトからの始まりは意外性があり、シャッタータイミングも良いですね。②③はすれ違いざまのノーファインダー撮影かもしれませんが、画面の傾きによる不安定感、息苦しさ、光と影で響かせる余韻などアプローチも構成も見事です。一見バラバラな3枚ですが、まとめることで巨大な力となり、めまぐるしく流れる街の様子を巧みに描いています。これぞストリートスナップ。人によっては恐怖を感じるかもしれません。タイトル「街」は可もなく不可もなくですが、仮に「同時刻」というタイトルだったらより想像力が働き、事件性や恐怖感をさらに煽れそうです。

 

 

第2位     
保坂兼司(東京/写真集団 剣)
 

「下町花火」11月号推薦

惚れ惚れするような、いい作品ですね。1枚1枚のクオリティが高 く展開も見事。路地で花火を楽しむ住民の様子が手に取るように伝わっ てきます。①主役は住民と最初に伝えることであとは成り行きを見せるだけの効果的な構成です。②③はドンドンと打ち上げられる様子を2枚並べることで花火の賑やかさと臨場感を描写。イスに座る住民からはどんな花火が見えたのだろうという見る 側の疑問にも答えています。また③はベランダで楽しむ別の住民と自転車を止めて見上げる人物を写し込み、この界隈の人々皆に愛される花 火であることを伝えて余韻を広げています。④はこんな楽しみ方もあるというサービスカットで静かに終えていく。路地は作者得意のテリトリーですが、まざまざとその実力を見せつけられました。

 

 

 

 

第3位     
吉川優子(北海道)

「歓楽街のヴァイオリニスト」5月号推薦

キーワードは「謎」でしょうか。確かにそこにいるはずなのに、空気か幽霊の如く、誰も気に留めずにそれぞれの世界に没頭している不思議な空間に心がざわめきます。内容を理解しようとタイトルに救いを求めても、この女性がモデルなのか実存する流しのヴァイオリニストなのかもわからずさらに困惑。気づいた時にはまんまと作者の術中に陥っているのがこの作品の魔力です。夜、雨のシチュエーションに加え、はっきりと見せない状態から始まり徐々に女性の姿を見せていくことでモヤモヤを取り除いていく展開もよく考えられています。画面構成も①③④のような水平垂直を意識したものだけでは綺麗すぎてフィクション感が出ましたが、斜め構図の②が入ったことで、非演出の可能性を感じさせたのも実に巧妙でした。