1月号 「防人」時津伸一(愛知)

1月号「防人」時津伸一(愛知)

【選評】胸の勲章を飾り誇らしげに並んだ兵士たちの表情は極めて個性的です。これらは戦死者を弔うために故人の写真を元に復元されたもので、知多半島の軍人墓地に祀られています。写真と向き合っていると、理不尽な死に追いやられた無念を告発するかのような無言の力が伝わってきます。モノクロならではの重厚な一枚で、タイトルの「防人」では語りきれない部分でもあります。

人気のない境内に今もひっそりと整列している兵士たちの像です。
ソニーα99・タムロンAF70〜300ミリ・F16・1/160秒・ISO1600・エプソンSC-PX5VⅡ・エプソン写真用紙クリスピア/愛知県南知多町・7月中旬,16:00頃

 

 

 

2月号 「死」中原秀夫(岡山/吉備路写真クラブ)

2月号「死」中原秀夫(岡山/吉備路写真クラブ)

【選評】兄妹の顔をあえてカットすることで、観る側は「一体彼らはどのような表情をしているのだろう?」と想像してしまいます。また彼らの片足が浮いているため、絵に動きも生まれています。小鳥に日も当たっていることから、そこに視線が釘付けになる悲しいシーンではありますが、それらを総合すると写真としては大変優れた一枚だと思います。

小鳥の死骸を兄と妹が見つめていました。悲しい現実、命の大切さを感じたかもしれません。
ニコンD700・AFニッコール28〜300ミリ・プログラムオート・ISO1600/倉敷市・3月下旬,10:00頃

 

 

 

3月号 「家族のかたち」増田哲子(福岡/写友会弥生)

3月号「家族のかたち」増田哲子(福岡/写友会弥生)

【選評】実りの秋を謳歌する農家のご一家、収穫の歓びの様子がストレートに表現されている。前後のボケを上手く利用し、作品に奥行きと立体感を出している。構図も完璧、順光に近い光で秋晴れの鮮やかな色彩を演出。作者がポーズをお願いしたのかもしれないが、家族の笑顔を見れば、作者との信頼関係を推察できる。写真は「1コマの映画」だと考えるが、作者は名監督に違いない。新型コロナ禍の中、かつての震災から復興しつつある南阿蘇村の笑顔に元気をいただいた。

南阿蘇村、根子岳の麓。自然の中で生きる家族をこの7年撮り続けています。
ソニーα7RⅢ・FE70〜200ミリ・F4・1/200秒・ISO100/熊本県南阿蘇村・10月中旬,11:00頃

 

 

 

4月号 「熱帯夜」加藤吉和(愛知)

4月号「熱帯夜」加藤吉和(愛知)

【選評】画面全体に出ている高感度ノイズのかすかな荒れが、余熱のこもった熱帯夜の空気感を見事に表現しています。サビの浮いたくたびれたトタン外壁、なぜか紫色のやや妖しげな光、闇に消え入る空間に浮かぶ提灯、どうやらうら寂れた漁港の片隅で出会った光景のようです。そして所在なげに立ち尽くす老婦人と通りすがりの少年、いかにも夏の夜のひとコマです。

魅力的な夜景でした。人物がバランスよく入るように注意を払いました。
ソニーα7Ⅲ・EF24〜105ミリ・UV・F4オート・ISO12800・エプソンSC-PX5VⅡ・写真用紙光沢/輪島市・8月中旬,21:00頃

 

 

 

5月号 「二人の世界」増田晶子(静岡/マリン35)

5月号「二人の世界」増田晶子(静岡)

【選評】ダムの放水によって巻き上がった、おびただしいほどの水しぶき。その濃淡によって感じさせる激しさや力強さがカップルのたたずまいとは対照的で、不安感をあおりとても神秘的なイメージを創り上げてくれました。周りの風景を覆い隠し、まるで二人にスポットライトがあたっているかのようなこの状況になるまで、粘った甲斐がありましたね。

偶然にダムの放水をしているところに出会い、カップルだけになるのを待って撮影しました。
キヤノンEOS RP・タムロンAF28〜300ミリ・F8・1/4000秒・ISO1000・エプソンSC-PX5VⅡ・松本洋紙店絹目調/静岡県川根本町・11月中旬,13:00頃

 

 

 

6月号 「光害」高木善一(愛知)

6月号「光害」高木善一(愛知)

【選評】巷では呪術をテーマにしたアニメが人気のようだが、この作品を目にした瞬間、「伏魔殿」を連想した。長時間露出の代わりに比較明合成を駆使することでヒメボタルの発光軌跡を定着。奥にうっすら見える社殿への参道と木立を斜めに走るブレーキランプの赤い光と影により、見慣れたホタルの生態写真の域を超えた、不気味で幻想的な作品に昇華させている。作者がタイトルを「光害」としたことで、少しドキュメント色の強い作品となったが、異空間をイメージして作画したのならば、そこを意識したタイトルでも良かった。

駐車場からのブレーキランプを異空間な背景にしてホタルを写し込みました。
ニコンD4・AFニッコール50ミリ・F2・3秒・比較明合成・ISO800・三脚・エプソンPX-5V・コクヨ写真用紙光沢/丹波市・6月下旬,20:00頃p

 

 

 

7月号 「肖像」時津伸一(愛知)

7月号「肖像」時津伸一(愛知)

【選評】おびただしい枚数の応募作を次々に見てゆくなかで、はたと目を留め、溜め息をつき、しばらく見入ってしまった1枚です。霊長類の内面がにじみ出たこの一瞬にどうやって近づけたのでしょうか。まるでライティングの完備したスタジオで、共通の言葉で意思疎通を図ってポーズをつけ、リラックスしたごく一瞬を写し取ったかのように見えます。切れ味の冴えた傑作です。

食事の時間、飼育員さんが現れる方向を見つめながら首を長くして待っていました。
ニコンD500・AFニッコール80〜400ミリ・F8・1/8000秒・ISO6400・エプソンSC-PX1V・エプソンVelvet Fine Art Paper/浜松市・12月上旬,11:00頃

 

 

 

8月号 「入江の午後」矢満田道之(神奈川)

8月号「入江の午後」矢満田道之(神奈川)

【選評】まず目に飛び込んできたのが、まるでミラーレンズのリングボケのような、水面に輝く美しいハイライトです。そして左の子の手のしぐさや右の子の笑っている口元など、決定的ともいえる瞬間をシルエットで浮かび上がらせたところがとても素敵です。モノクロでの表現も2人の楽しさに素直に吸い込まれ、心奪われる印象的なワンシーンです。

輝く波のボケ具合を調整するため絞りの設定に気を配りながら撮影しました。
ニコンD800・AFニッコール80〜400ミリ・F8・1/4000秒・ISO100・エプソンPX-5600・エプソン写真用紙クリスピア/志摩市・1月中旬,14:00頃

 

 

 

9月号 「昼下がりのひととき」皆川春奈(愛媛/ニッコールクラブ南予支部)

9月号「昼下がりのひととき」皆川春奈(愛媛)

【選評】定休日前日の昼下がり、趣のある食堂で食後のビールも終えた常連客と女将さんが談笑している「ほっこり」した瞬間を上手くとらえている。本来ならば、様々な色彩が漂う画面になるところを、少しコントラスト高めのモノクロ写真に仕上げることで、女将さんの表情が強調され、作品のインパクトも強くなった。「定休日」や額の情報、テーブルのラーメン鉢なども鑑賞者が考察する要素として楽しく、非常に「読み応え」のあるモノクロ作品となった。

創業70年の老舗食堂の昼下がり。食事を終えた常連客が90歳になる大女将とくつろいでいました。
ニコンD750・AFニッコール24〜120ミリ・F8・1/50秒・ISO2000/松山市・3月中旬,14:00頃

 

 

 

10月号 「びっくり顔」池田孝保(滋賀)

10月号「びっくり顔」池田孝保(滋賀)

【選評】スマホの撮影に熱中する孫娘たち。物心ついたときからスマホがごく身近にあって、まばたきする程度のオモチャ感覚で写真を楽しんでいる一瞬を活写した傑作です。多少の演出はあるにしても、まだ箸の持ち方もおぼつかないであろう幼子なのに、自撮りするその手つきがすっかりなじんでいる様子は、まさに時代ですね。写真はどこに行くのでしょうか。

孫娘2人、スマホの自撮り。いろいろな表情をしたうちの印象的な1枚です。
ニコンD800・AFニッコール28〜300ミリ・F5.6・1/30秒・ISO640・エプソンPX-7V・富士フイルム「画彩」プロ/大津市・2月下旬,21:00頃

 

 

 

11月号 「水面」島岡秀和(奈良)

11月号「水面」島岡秀和(奈良)

【選評】一瞬、何をどう撮ったのか理解できないまま、じわじわと写真の力と魅力に圧倒されてしまいました。それは金属のような質感でもあり、立体的な鳥瞰図のようでもあり、脈を打って生きている生物の血管のようでもあり、コラージュをした合成写真のようでもあり。いろいろなことを想像して、とても不思議な気持ちになりました。実際には海岸で砂浜と波を撮影されたとのこと、想像力を掻き立てられる素晴らしい作品です。

ライフワークとして、干潮のときに海岸で砂の模様を撮影しています。この作品は、水の上から刻々と変化する砂の模様を撮影した一枚です。
ソニーα6300・E18〜135ミリ・PL・F10・1/500秒・ISO500・エプソンSC-PX5VⅡ・松本洋紙店絹目調/和歌山県日高町・6月下旬,11:00頃

 

 

 

12月号 「寝室」錦織謹造(島根)

12月号「寝室」錦織謹造(島根)

【選評】夫婦が主と思われる寝室が、穏やかな陽射しに包まれている。手入れされた裏庭、寝具の配置や置かれている調度品、家族の写真や壁のちぎり絵などから、主の性格や趣味嗜好、そして人生が推測され、一つの家族小説を読み解いているような錯覚さえ覚えます。たぶん作者はそれほど気負って撮影したわけではなく、今回トップ入賞に輝いたことを驚いているかもしれません。そんな無欲な意識がA4サイズ作品の中にあります。身近な日常から感じ取った何気ない“発見”が作品になる、そんな可能性を物語る一枚です。

非常に天気が良かったので、手元にあったカメラで軽い気持ちで写しました。
ニコンD200・AFニッコール18〜200ミリ・プログラムオート・ISO400・エプソンEP-808AW・エプソン写真用紙光沢/松江市・10月下旬,13:00頃