1月号「白線」大村マサル(大阪)

1月号「白線」大村マサル(大阪)

立木 なぜこれが今月のトップ賞なんだって言う人がいるかもしれないけど、世の中の何でもないようなことを何でもあるかのように撮るのって写真の面白さ。登場人物はたった二人。舞台は白線とビルだけ。
――シンプルな構成ですが、目を引くのはなぜなのでしょうか。
立木 やっぱり人物の対比だよね。一人は疾走中でもう片方はスマホ。体力作りと情報収集。立っているのと寝ているところ。それを区切るように白線があって境界を作っている。こんなことがあったらいいなと思う場面を撮れたわけで、機転を利かして撮れたならば最高だね。

2月号「ウーマン」吉林真寿美(静岡)

2月号「ウーマン」 吉林真寿美(静岡)

――老女像とリアルな人物を対比させています。
立木 レンズの特性を活かした写真ならではの表現だね。どの時代も男たちはろくなことをしないから女性の時代だよ、という意味なのかな。そこに海外からやってきた男女。女性はこの老女と目を合わせて会話をしているよう。
――男性は怖がって後ろに隠れている感じですか(笑)。
立木 目をそらしちゃっているよ。シンプルな構成なんだけど、細部まで読めて語れる写真。本人はどこまで意図しているかわかりませんが、手を離れた写真は勝手に一人歩きするものです。

3月号「雨天休業」大石かおる(静岡)

3月号「雨天休業」大石かおる(静岡)

――雨の日の撮影です。
立木 動物たちは雨の日だろうが関係なく飼われていて、撮影スポットとしてはありがたいよね。アザラシがお腹を見せているんだけど、攻撃をしないでという意味だったり、飼い主に甘えたりといろんな意味があると言われている。実際にどんな気持ちなんだろうね。
――人間から見るとのんびりリラックスしている感じにも見えますが……。
立木 手を見ると芸をしているようでもあるし、とぼけた感じで人間を笑っているようにも見える。雨の波紋がいいリズム感を加えているし、縦位置で切り取ったことで無駄なくとらえているね。

4月号「通りま~す」矢野直孝(神奈川)

4月号「通りま~す」矢野直孝(神奈川)

――この賑わいの中、バスが入ってきました。
立木 圧縮効果による力によって本当に多くの人が歩いているように見える。実際は、ギュウギュウではないから、カメラの視点って面白いよね。切り取り方も絶妙だった。
――お店の看板にも圧倒されます。
立木 看板が代わったら香港や韓国にも見えるからアジア的な光景なのかもね。人気の沿線は交通の便がよく買い物が便利だったり、公園が整備されているのが理由だけど、人が多いのはご免だな。

5月号「小公園も昼さがり」阪口誠紀(静岡)

5月号「小公園も昼さがり」 阪口誠紀(静岡)

――東京のど真ん中、昼下がりの光景です。
立木 この三人は無関係なんだとか。都会にはすれ違いの人間関係が無数にあることを実感するよね。作者は、このОLと思しき女性に声を掛けてふとした一瞬をとらえることができた。髪が垂れているところがコケティッシュでいいよ。
――午後の陽射しもいい感じですね。
立木 ふと漏れてきた光が初夏のあたたかさを伝えてくれている。脇役となった男性たちのほうがだらしなく見えるのが現代っぽいところもあって面白い。

6月号「急ぎ足」日野昭雄(北海道)

6月号「急ぎ足」 日野昭雄(北海道)

――雨の日の観光農園展望台です。
立木 今月は哲学的だったり、トリックアート的だったり、目の前にある光景を記録する写真でありながら、いろいろな伝え方があるのが面白いよね。これもそう。展望台の手すりだよ、そこに水が溜まって映り込んだ。
――そして傘を差す人物が絶妙な位置にいます。
立木 やっぱりさ、他の人との違いを出すには何を見るか、に尽きるよね。この映り込みを面白いと思い、さらには人物を絡めて雨の日を伝えようという狙いが感じられる。この手すりがなかったらただの記録写真だからね。波紋にピントが欲しかったなんて些細なことは言わない。発見力に感動だね。

7月号「猛獣狩り」田中日登志(新潟)

7月号「猛獣狩り」 田中日登志(新潟)

立木 ワラのアートがよく出来ているよね。低い体勢で獲物をとらえるかのよう。そこへ呑気に網をもって猛獣狩りをする……なんてイメージかな。どうしてもさ、子どもを大きく撮ろうと寄ってしまいたくなるシーン。
――でも空を大きく入れて広く撮っています。
立木 コンテストって狙いが明確であると目を引くことが多くて、みんな断片を撮ろうとするんだ。だけどこの秋口の空を広く入れたのは実に見事。空を制する者は写真を制すって感じる。ちょっともの悲しい空模様が呑気な子どもとも対比になっていい。よく見ると猛獣もくたびれているようだな(笑)。

8月号「お昼寝」藤本俊彦(奈良)

8月号「お昼寝」 藤本俊彦(奈良)

――尾道の実家に帰り、散歩中に出会った猫だそうです。
立木 塀の上で昼寝なんて気持ちよさそう。全体が見えていなくても十分に伝わるし、空を背景にのんびりできることにうらやましさを感じる。それにしても尾道の実家……ってのが素敵じゃない!
――尾道に思い入れがあるんですか?
立木 我々世代は、小津安二郎の「東京物語」を思い出す。笠智衆と原節子が主演で上京した年老いた両親とその家族たちから絆、親と子、老いと死といったものを描いた映画。この眼差しは笠智衆と同じでないかと思うと、愛おしい気持ちで眺めるものです。

9月号「もれ陽」浅田よしつぐ(静岡)

9月号「もれ陽」浅田よしつぐ(静岡)

――この上を走るのはバイパスということです。
立木 なるほど、その間のわずかな空間が橋の下に美しい光を描いたわけだ。その細い光の帯に来し方行く末を顧みているような人物が下を向いているのがいいね。物語が生まれるよ。
――大きくするほどに魅力が伝わる写真ですね。
立木 光を求めてウロウロするのはカメラマンの特性でもあるから、こういうところに反応する。そこにひとつアクセントを入れられるかどうか。太陽の光の反射や川面の反射などいろんな光がモノクロによって描き出された一枚だね。すごくいいよ。

10月号「FACE」橋上 裕(三重)

10月号「FACE」 橋上 裕(三重)

――作者は玄関先でジーパンを脱ぐ習慣があるそうです。
立木 写真の面白さを語る前に、玄関でこんなに抜け殻のように服を脱ぐ技を見てみたいね、芸人としてもやっていかれそう(苦笑)。パンツ一丁で家を闊歩していないか我々としては心配。
――それを写真に撮る行為がまた面白いです。
立木 このページを見てもらえば被写体はいくらでもあるけど、この発想は今までにないよね。作者が今までの自分から脱皮しようとしているとも思えて、いろんな意味で新鮮。こうやって新しい写真が生まれてくるのは大歓迎だね。

11月号「帰り道」辻村光裕(静岡)

11月号「帰り道」辻村光裕(静岡)

立木 日本人ってさ、富士山を見るとついカメラを向けたくなるんだけど、毎日見られる環境にあるというのはうらやましいね。富士山はちょっと背景に入るだけで話が変わってくるほどシンボル的な存在。この種の写真をあと30枚揃えたら写真展だって可能だよ。
――それにはバリエーションも必要ですね。
立木 単調にならないように富士山を大きく撮ったり、小さく撮る必要もあるけど、コンテストとは違った写真の取り組み方になる。いつでも撮れるだけに、相応の覚悟がないといつまでもまとまらないけど、ぜひ実現してほしいね。

12月「そっと見守る」中道ちあき(和歌山)

12月号「そっと見守る」中道ちあき(和歌山)

――お祭りでの撮影。和菓子屋の前で隠れるように行列を見ている女性がいます。
立木 祭りの雰囲気は感じられなくて日常の光景に突然馬が飛び込んできたような驚きがある写真。日除けの幕を握っている手が可愛くて、ちょっとした仕草が目を引くポイントになるよね。
――白い幕と黒い馬というコントラストも効いています。
立木 馬が横切ると木村伊兵衛さんの写真を思い起こしてちゃうけど、写真ってどうしても過去に見たものに影響される。日常の中の美学をどこに求めるかが作品づくりでは必要だけど、幕のシワと手の形。これによって女性がどんな表情をしているかを想像する面白さがある。