1月号「EYES」辻 慶二(高知)

1月号「EYES」辻 慶二(高知)

【選評】それぞれの写真の中で、どこが瞳に相当する部分なのかがはっきりとわかるように撮影されているのは、作者が事前にテーマをしっかり意識しつつ被写体を探していたからでしょう。それでいて目の表情には少しずつ違いがあるようにも見えます。血走っているように見えたり、冷徹に観察しているように見えたり……まるで特撮の映画に出てくるワンシーンのようです。フレーミングの外への広がりの中で龍のようにも見えるし、もっと得体の知れない生物のようにも見える、異世界感満載の不気味な写真ばかりで、最高にかっこいい組写真ですね。3色バラバラの色でまとめられていながら、どれも平面的な要素を持ち合わせているので、まとまり感もしっかり出ています。

2月号「君の夢は? ……。」石津武史(奈良)

2月号「君の夢は?・・・・..。」石津武史(奈良)

【選評】①は造形物の上に無表情で顎をのせている、なんともとらえどころのない表情のお孫さん、②ではそのお孫さんが遠くを走っていく小さな背中。不思議な二枚の組み合わせです。ぐるぐる回っている道がまるでお孫さんの思考のようにも、また将来への道筋のようにも、いろいろな解釈ができそうな組み合わせですよね。特徴的な形の木がどちらの写真にも入っていたり色の統一感もあったりなど、組み合わせとしてもよく考えられていますが、視覚的にまとめた組写真ではなく、想像力を使ってまとめている組写真ではないかと思いました。最少の二枚組だけれども想像できる世界観は果てしなく広いです。そこの部分が大きな特徴で、強烈な個性とも言える部分でしょう。

3月号「旧家の春」髙木博規(愛知)

3月号「旧家の春」髙木博規(愛知)

【選評】具体的ではなく広がりを含むタイトル、それにモノクロによる想像力が膨らむ写真の組み合わせが相乗効果となって、とても文学的な組写真に仕上がっていますね。①によって特定の季節が、②によってこの物語の主人公の存在感が、それぞれしっかり伝わってきます。そして、この流れを崩さないように静かに淡々と③④と続いていく流れは、ひとつの良質な物語を見ているようです。さらに細かく写真を見ていくと、女雛を主役にした対象のとらえ方、まつ毛や鼻筋を意識した顔の向き、小さいけれどタイトルと親和性のある『立春大吉』の文字、最後の残雪と、細部へのこだわりも素晴らしいです。まさに“神は細部に宿る”を体現している作品と言えるでしょう。

4月号「絆」松島眞知子(静岡)

4月号「絆」松島眞知子(静岡)

【選評】動物と飼育員さんとの関係を、動物の種類や体の向き、光の印象でバリエーションを出しつつ、平面的に関係性をとらえている点では、すべて同じ視点に見せています。組写真として枚数を見せるための変化と統一感のバランスをうまくまとめているので、わかりやすい組写真に仕上がっていると言えるでしょう。そしてどの写真も、こまかい手の動きまでこだわって撮影しているように感じられます。しっかり動きが見える角度や瞬間を狙っていますからね。もうひとつ、飼育員さんの表情があまり見えない写真ばかりなのもよかったかもしれません。このことで人間よりも動物のほうが主役のように感じられます。

5月号「たゆとう光」尾内 泰(埼玉)

5月号「たゆとう光」尾内 泰(埼玉)

【選評】得体の知れない不思議な光を扱った組写真。作者のコメントを見てみると、三枚中二枚は多重露光とあります。そこで「なるほど!」と納得。現実にはこの写真のような世界は存在しないことを理解したのでした。写真はすべて理解できなくても、自分にとってよいかそうでないかは直感的に認識できることを、この作品から教えられた気がしました。タイトルの「たゆとう」をあらためて調べてみると「揺れ動く、漂う」とあります。まさに実体のない光にふさわしい、いいタイトルだなと思いました。また美しいプリントも見逃せません。キラキラと輝くプリントが、現実には存在しない世界を、本物以上の存在感として表現しているなと感じました。

6月号「えべっさん」石津武史(奈良)

6月号「えべっさん」石津武史(奈良)

【選評】のぼりに印刷された「えべっさん」の控えめなイラストから始まる組写真。②では大きく写されたアウトフォーカスのお面のえべっさん、その背後に本物のえべっさんが小さく登場。街に溶け込んでいき最後には車の運転までしてしまう、七福神とは思えぬ奇想天外な行動でまとめる組み方がコミカルでとても秀逸です。イラストやお面のえべっさんが、いつの間にやら本物のえべっさんになり変わっているかのようにも見えますね。えべっさんに扮している人物の表情や顔の輪郭が、イラストやお面にかなり似ているという名サポートがあったことで、より作品のレベルが上がったのは言うまでもありません。

7月号「モップパフォーマンス」松島眞知子(静岡)

7月号「モップパフォーマンス」松島眞知子(静岡)

【選評】なぜ鳥と書道が一緒の画面に? と不思議に思ってコメントを読んだら、まさかモップの跡とは! それがわかっても、なお不思議な写真です。なぜモップの跡が黒いんでしょう? そして実際に肉眼でもこんな状況に見えるのでしょうか? いずれにせよ、作者の見せ方やアイデアの勝利だし、鳥の種類や配置のまとめ方、シンプルすぎるほどの画面構成にもこだわりが感じられて抜かりなしですね! 技術的にうまい写真というのはコンテストにおいては大事なことですが、それに加え、この作品のように驚きや個性的な発想はとても重要な要素です。推薦にふさわしいオンリーワンな作品と言えるでしょう。

8月号「水景」廣富 登(神奈川)

8月号「水景」廣富 登(神奈川)

【選評】青の強さが目に飛び込んできて印象的です。その青の色味も統一されているように感じました。水も空も同じ青。さらに人の服や家の屋根、パイプなど、あらゆる青が同じ色です。また、差し色のように赤色があることで、より青色が際立ちました。水の境界線をすべて画面中央にした構図へのこだわりも、組としての安定感が出ていいですよね。そして現実世界が写っているはずなのにどこかリアリティがないところ、これがこの作品の最大の魅力だと思います。地球じゃなく別の惑星のような、そんな面白さを感じました。一見バラバラに見える三枚の人物や風景などをこのように並べることで、物語性が出てきました。まるで映画のシーン写真のような、気持ちのいい写真ですね。

9月号「バスストップ」山本芳子(高知)

9月号「バスストップ」山本芳子(高知)

【選評】古くなって使われなくなったバス自体の存在感が圧倒的! 白黒写真が当たり前だった昔から時が止まってしまったかのようで……ひび割れや風化という本来ネガティブなものも、これがあるからこそ、より美しく見えています。長い時間の堆積が、想像できないようなものをつくり出しているのかもしれません。とはいえ被写体の力だけでなく山本さんのテクニックもなかなかのもの! 明暗の混在したシーン、斜光や逆光気味の光を選んでいるからこそ、各写真がドラマチックです。全体がほんのり緑色にかぶっていることも、人間がつくり出したバスが自然に帰っていくのかも……そんな想像をしてしまいました。またタイトルに「ストップ」という文字が入っていることも、作品の世界観をより深く感じさせる手助けになっている、いいタイトルだなと思いました。

10月号「ゼロ・グラビティ」辻 慶二(高知)

10月号「ゼロ・グラビティ」辻 慶二(高知)

【選評】無重力という、ほとんどの人にとっては実際に見たことがない想像の世界を、はっきり具現化している凄さに驚きました。驚きつつ詳細によく見てみると、上下逆さにすることによる視点の変化をうまく使っています。たったそれだけでもテーマと合わせると大きな効果がありますね。①の月のように見えるものはなにを撮ったのでしょうか? 後ろに星のような輝点も写っていますが、実際の星ではないでしょう。③の地球のようなものは、よく見てみるとクラゲかも? これらを組み合わせようとするアイデア、さらに実行してしまう大胆さも、どちらも素晴らしいです。これからもどんどん思いもよらない発想で驚きの作品をつくってみてくださいね。

11月号「羅生門」山本芳子(高知)

11月号「羅生門」山本芳子(高知)

【選評】芥川龍之介の同名の小説をイメージさせるタイトルですね。ぼくは実際の小説に精通しているわけではないけれど、きっとこういう舞台なんだろうなぁというのが想像できる、明快な描写です。小説は平安時代を舞台にしているようですが、令和の世界で表現してみたら……なるほど、こんな感じね、と。このように小説や物語などの文字の世界を映像として表現しようとすると、どこかチープなものに見えてしまいがちですが、この作品にはそういう脆さのような部分はまったく感じません。きっと山本さんならではの解釈がそこに入っているからこそチープな表現にならないし、むしろオリジナリティもしっかり感じるオマージュ作品に仕上がったと思いました。

12月号「Tokyo city today」村上俊之(茨城)

12月号「Tokyo city today」 村上俊之(茨城)

【選評】三枚ともすべて合成を用いながら今の東京を表現しようとした画期的な組写真です。合成なので目では実際に見えないけれど、写真上でいかに表現しようとしたか、その完成度が素晴らしいです。各写真には核となる東京観光を楽しんでいる外国人がしっかり写っています。また街並みもよくわかるような切り取り方をしています。それでいて主役&街並みがとてもいいバランスでまとめられています。頭で構成しながら絵で描くのなら比較的簡単かもしれませんが、写真の合成で見せるのはかなり難しいのではないでしょうか。そして街の中にいる人物が、空間的には通常はありえない上下の階層のように表現されています。これはとてもめずらしい見え方ですね。まるでエジプトの壁画のように見える面白さがありました。