1月号「清なる湧き水」山田理子(愛知)

1月号「清なる湧き水」山田理子(愛知)

【選評】画面全体の色合いがとても素敵で、湧き水の透明感あふれるいい描写です。水面に浮かんだ葉をレイアウトよく見せ、映り込んだ木立とうまく合わせたカメラポジションを選び、バランスのよいフレーミングで撮っています。この作品の魅力は、まるで夢の世界にでも迷い込んだかのように感じることで、一幅の絵を眺めているような想いも抱かせてくれます。見る側の心に染み入って見飽きない、実に素晴らしい作品です。(三輪 薫)

2月号「草千里の夏」橋本勝英(広島)

2月号「草千里の夏」橋本勝英(広島)

【選評】緑鮮やかな牧草地の池の畔に、阿蘇の代名詞とされる放牧された一頭のあか牛が佇み、水面にその姿が映り込んでいます。夏らしい入道雲が広がり、雄大なスケールも感じられ、映画のワンシーンのような情景に心惹かれました。阿蘇では毎年大規模な野焼きを行うことでこの大草原を守っていて、それを次の世代に繋げていかなければ、というメッセージがこの作品に込められているように感じました。(喜多規子)

3月号「つなぐ命」大熊正行(東京)

3月号「つなぐ命」大熊正行(東京)

【選評】自然風景の表情を丁寧に観察して切り取られた作品です。中心のない画面構成の中に自然の要素が散りばめられています。緑にもいろんな色があるのだなぁと色彩に注目したかと思えば、水面の動きが目に入ったりして、画面のどこを見ても見応えがありますね。長時間の鑑賞にも耐える飽きのこない構成に魅了されました。PLフィルターで水面反射も見事にコントロールされ、撮影技術がしっかりされていることも高評価のポイントです。(GOTO AKI)

4月号「余情」前島章雄(埼玉)

4月号「余情」前島章雄(埼玉)

【選評】冬の湖の物静かな早朝、澄んだ空気感が漂う素敵な描写です。水面と凍った部分の表情がとてもよい部分をとらえていて、中央に水面から出る小さな木々を入れたフレーミングも見事です。凍った部分と水面とを手前から奥まで交互に入れる層構成の画面は非常にバランスよく見えます。水面と雪面の色合いやグラデーションも美しく、透明感を上手に引き出したプリント仕上げもいいですね。(三輪 薫)

5月号「刹那の輝き」市川清恵(神奈川)

5月号「刹那の輝き」市川清恵(神奈川)

【選評】低気圧が発達したときに起こる怒涛の波をとらえた作品です。沖合いに迫る波頭に焦点を当て、朝陽に輝いた⻩金の波飛沫、うねる波のグリーンの色彩、手前の⻩金の映り込みがバランスよくフレーミングされ魅力的です。オートフォーカスの進化で動く被写体をとらえることは比較的簡単にはなりましたが、事前に頭の中で撮りたいイメージを明確に描いて的確なシャッタースピードで撮影し、臨場感あふれる作品に仕上げた点を評価しました。(喜多規子)

6月号「波間」吉田正男(福島)

6月号「波間」吉田正男(福島)

【選評】シンプルな構図と一見どこででも撮れそうな海の表情の作品ですが、何かが引っ掛かり、審査の会場で長い時間見つめてしまいました。海面の複雑な曲線と複数の波頭の飛沫が響き合い、そこに淡い空の色彩と点在する雲も加わって、鑑賞者である私の視線があちらこちらに引き寄せられたようです。これは狙って撮れるものでもなく、撮影された作品から選ぶことができた吉田さんの眼の素晴らしさ。プリントも繊細で美しく、音が感じられる一枚です。(GOTO AKI)

7月号「冬の名残り」村上 勲(栃木)

7月号「冬の名残り」村上 勲(栃木)

【選評】枯れた蓮の周りを取り囲んだ部分が氷とは思えない、摩訶不思議な浮遊物のようにも見え、その周辺のトーンが落ちてこの部分がひとつの球体のようにも感じますね。まるでガラスで創り上げた美術品のような魅力的な姿を現していて、立体的に見えるのもこの作品の魅力になっています。氷に閉ざされた枯れ草の色が透けて見えるのか、画面全体の渋く気品のある色調もよく、超光沢紙で眺めたらより素晴らしい表情を見せてくれるでしょう。(三輪 薫)

8月号「人知れず」大熊正行(東京)

8月号「人知れず」大熊正行(東京)

【選評】暗く落ちた背景の中に、朝陽を浴びたヨシ原と、そこに佇む白鷺の凜とした姿が、ひときわ浮き上がってとても美しいです。単独行動でエサを狙っている最中なのでしょうか。撮影地は都内のようですね。近年、河川敷では護岸工事などが行われ、河岸の植物が破壊されることが多いため、都会の自然の中でも野鳥が住み続けられる豊かな自然環境を守りたい、というメッセージも込められた一枚に読み取れました。(喜多規子)

9月号「戯れる」古賀幸一郎(福岡)

9月号「戯れる」古賀幸一郎(福岡)

【選評】写真には2種類のクラゲがさまざまな大きさで写っています。それぞれの深さで漂いながら四方八方へ向かい、鑑賞者である私の視線は画面のあらゆる方向へと導かれました。明暗の繊細な表現、泡と影、淡い色彩、それぞれの組み合わせが響き合い、気づけば作品の世界観に入り込んでいた感覚です。古賀さんが撮影現場で丁寧に状況を観察して撮影された様子がうかがえました。きっと失敗した写真も多かっただろうなぁと“分母の厚み”も感じた作品です。(GOTO AKI)

10月号「風声」川口 匡(愛知)

10月号「風声」川口 匡(愛知)

【選評】柱状節理的な岩肌がしっとりと濡れて重厚な表情を見せ、岩の間から流れ落ちる水流が風に吹かれて散るさまから、とても神秘的な雰囲気を感じます。ダイナミックな景観を見せる滝ですが、魅力を感じた一部をアップ気味に引きつけた画面構成ながら、どっしりとした安定感のあるフレーミングで撮っていて、岩肌の質感描写もよく、プリント仕上げもうまいです。マイナスイオンに癒されるこの場の空気感も引き出した素晴らしい作品です。(三輪 薫)

11月号「冬織物」山田康雄(埼玉)

11月号「冬織物」山田康雄(埼玉)

【選評】厳冬の中、風に吹かれながら凍ったのでしょうか。今にも溶けて消えてしまいそうな繊細な氷を、作者は「織物」に喩えて表現。お洒落ですね。星屑のように細かな虹色の光が散りばめられ、朝の柔らかな光によって暖色に染まり、寒さの中に温もりも感じられます。見過ごしてしまいそうなわずかな光を、日頃から鍛えてきた審美眼によってとらえた、夢にあふれた作品で、大きく伸ばしたプリントで見てみたいです。喜多規子)

12月号「宇宙」村田一史(山梨)

12月号「宇宙」村田一史(山梨)

【選評】氷の繊細な質感と曲線で構成される不規則な造形が、望遠レンズで見事に切り取られた作品です。高速シャッターでシャープな描写、青みがかった透明な氷が複雑に重なり合い、光の反射が彫刻のような立体感を生み出しています。今にも動き出しそうな迫力と抽象的な美しさが感覚的に伝わってきますね。露出はややアンダー目で黒が締まり、細部までクリアに描写されています。氷の透明感をいっそう引き立てる表現も魅力的です。(GOTO AKI)