1月号「古代衣装をまとう」溝端敬子(大阪)

1月号「古代衣装をまとう」溝端敬子(大阪)
【選評】日暮れとともに、色とりどりの灯りを纏って現れた女性たち。七夕祭りでの光景なのでしょう。不思議な浮遊感が漂うのは、皆それぞれの方向をむいているからでしょうか。また美しい影は微笑んで見えたり、雲の向こうの星に祈っているように感じられたり……。七夕のストーリーと重ねて想像が膨らみます。ゆったりとしながら無駄のない空間の切り取りも心地よいですね。一夜の物語のはじまりを、幻想的に表現した作品に惹かれました。
2月号「陰と陽」大濱 智(山口)

2月号「陰と陽」大濱 智(山口)
【選評】光と闇、太陽と月のように森羅万象は「陽」と「陰」で成り立っているという考えが古くからありますが、この作品の魅力は、二気から生まれたデザイン的な面白さを逃さなかったこと。そしてそれを凝縮したレンズ使いや構図です。連なった、烏居の影がリズミカルで、その中に浮かび上がる色彩や形も印象的ですね。陰陽の境目にある狐面からは、神の使いであるほか、妖狐としても見られた狐の神秘的な二面性も感じました。
3月号「向かい風」松本美枝子(岡山)

3月号「向かい風」松本美枝子(岡山)
【選評】面白そうな?(写真)映えスポット?のようですが、撮らされることなくストリートアートや傘を効果的に表現に取り入れています。吹きつける向かい風のなか、怪しげな視線を感じながらも笑って前進しているような彼女。どんよりと重い空や瞳とのコンドラストによって、溢れる10代のエネルギーが一層爽やかに逞しく感じられます。松本さんも一緒に楽しみながら撮影している雰囲気が良いですね。こちらまでパワーをもらえる作品です。
4月号「歓喜」多田重雄(埼玉)

4月号「歓喜」多田重雄(埼玉)
【選評】春の野原の心地良さと楽しげなリズムが伝わってきます。一番右の子はムードメーカーになっていて、表情や小躍りポーズに釣られ、この場の空気がより軽やかに感じられますね。詰めた画面に子どもが四人……とかなり情報量が多いのに、それぞれが重ならない絶妙な遠近とタイミングに驚きました。動きに繋がりがあるような不思議なまとまり感も面白いです。同時に複数の動きをとらえる瞬発力と画面構成力が素晴らしいですね。
5月号「不思議!」岡 美代子(岡山)

5月号「不思議!」岡 美代子(岡山)
【選評】すこし丸みを感じる画面の中で、ノスタルジックな雰囲気や柔らかい表情にほっとしました。余白のほとんどないタイトな切り取りもよく、周囲の説明的な情報がないことで、映り込みから音を感じて楽しんだり、自由にこのシーンを広げたりすることができました。写真は一瞬の記録からはじまって、見る側が受けとったイメージや想いと化学反応しながら、さまざまな記憶に変化していく。そんな写真の醍醐味も感じながら拝見しました。
6月号「悩み」竹内喜代美(三重)

6月号「悩み」竹内喜代美(三重)
【選評】動物園での作品は、ガラスや檻越しの対象に寂蓼感を強調させた表現も多く目にします。ですが竹内さんがとらえた二人の間には、やさしさを含んだ空気や悩み相談をしているようなユーモラスさが感じられました。またモノクロ仕上げの質感描写も魅力的です。少し汗ばんだ子どもの髪からは、駆けてきた姿が想像できたり、水中の白クマには発光しているような神々しさもあります。絵本の世界に誘われるようなシーンに、想像が膨らみました。
7月号「好奇心」山口幸雄(神奈川)

7月号「好奇心」山口幸雄(神奈川)
【選評】女性の目力や大胆なフレーミングによって、一目で引き込まれるインパクトのある作品です。抱えるようにしてプリクラ機のモニターを覗きこむ少年たち。また1/30秒のわずかなプレ表現が絶妙ですね。女性と少年たちの間に静と動のコントラストができたことで、平面的になりがちなシーンに立体感が生まれています。それにワサワサと落ち着きなく楽しげな様子は学生らしく、微笑ましく思いました。
8月号「帰り道」神山京子(千葉)

8月号「帰り道」神山京子(千葉)
【選評】子ども祭りの帰り道のようです。境内の木陰を抜ける瞬間ですが、カラフルな吹き流しの輝きや、少女のリボンが鯉たちと揺れている様子など、影があることで一層美しく感じられました。もう一歩階段を下れば、全てが光に照らされて繊細な描写は消えていたでしょう。戻らない一瞬の光景の美しさと、子どもと過ごせる時間の短さや尊さを重ねて、じんわりと目頭が熱くなりました。
9月号「祖谷の伝統行事」加藤郁代(徳島)

9月号「祖谷の伝統行事」加藤郁代(徳島)
【選評】3年に一度のかずら橋の架け替えを終えて、三世代による渡り初めの光景です。男性は普段杖を使われている様子。雨に濡れた約45mの吊り橋を草履で渡るのは相当緊張されたと想像します。しっかりと手を繋いだお二人の笑顔は、その緊張から解放される安堵感があらわれていました。艶やかで野性的な橋の描写も魅力ですし、しっとり霧雨に包まれた空気感も美しく、伝統継承の重みを感じる素敵な作品です。
10月号「虫養い」加藤郁代(徳島)

10月号「虫養い」加藤郁代(徳島)
【選評】金色に染まった丘に立つ、少女でもなく大人でもない二人。お祭りの最中のようですが、そのもっと向こうを見ているようで、眼鏡や瞳の中の光が印象的です。タイトルの“虫養い”(腹ごしらえ)も、彼女たちの退しい雰囲気を端的に表していますね。光だけが詰まった画面は、これから何でも描ける可能性しかないということ。ご本人もおっしゃる独特の空気感は、こちらまで少し前向きな気持ちにさせてくれました。
11月号「ハレの日の雨」佐藤信彦(大分)

11月号「ハレの日の雨」佐藤信彦(大分)
【選評】見た瞬間にこの少女の状況が想像でき、どんな気持ちか感情移入してしまいます。ガラス越しのプルーや映り込みが、彼女の複雑な気持ちを表現しているようです。また施された目元のお化粧や、きゅっと噛みしめた唇の赤色も印象的ですね。お衣装を脱いで振り向いている様子が本当に悔しく名残惜しそうで……、雨粒が涙にしか見えません。一枚にストーリーを凝縮した、力のある作品です。
12月号「田んぼの学校」近藤ゆき(徳島)

12月号 「田んぼの学校」近藤ゆき(徳島)
【選評】あたりを静かに染める夕刻の色彩が、青々とした稲やロウソクの灯りと溶け合って美しい調和を見せています。そんな絶景的なタイミングの中、暗くなる直前まで水辺を覗き込んでいる子どもたちの様子が微笑ましいですね。意識された波紋も良いアクセントで、前景の傾きものどかな雰囲気とマッチしていると思います。やわらかさの中に瑞々しい生命力が溢れていて、未来に残したい光景だと思いました。