1月号「捕獲作戦」多田重雄(埼玉)

1月号「捕獲作戦」多田重雄(埼玉)

【選評】水辺でカマキリがメダカを捕食しようと、左手は水面につけて水面に覆いかぶさり、今にも飛びかからんとしています。水面に反射したフォルムは恐竜のようないで立ちで緊張感に包まれる一方、メダカたちは露知らず悠々と泳いでいて、いつ襲われてしまうのだろうと心配になるほど。自然界の食物連鎖を固唾をのんで眺めているかのような錯覚に陥りますね。足元にネイチャーを見つける、多田さんのカメラアイに拍手です。

2月号「眩しい川辺」中山和彦(神奈川)

2月号「眩しい川辺」中山和彦(神奈川)

一年を通じて水温変化の少ない伏流水が流れ込む川なのでしょう。気温差による朝靄があふれ、差し込む光によって幾筋にも光芒が出現しています。この光景の一番の魅力は、虹色の輝きを放って水面から湧き出ている光芒です。中山さんはそれを視線が集まる手前に配置し、フィルター操作で色の印象を高め、そして徐々に小さくすることで奥行きを表
現。日陰による色温度の変化も計算して画面を構成しています。

3月号地を走る野火」瀬川典禧(埼玉)

3月号「地を走る野火」瀬川典禧(埼玉)

【選評】野焼きは凄まじく燃え上がり危険を感じることがありますが、瀬川さんの作品は恐怖心が煽られない安堵感と、パチパチと焼ける音が聞こえる臨場感を味わうことができます。安心できる距離感と安定した構図がそうさせたのでしょう。赤く燃える炎はピークが過ぎ、立ち並ぶ木々を避けるように広がる黒い焼き跡が静かな美しさを感じさせ、空まで立ち昇る赤い煙で自然の力強さを感じました。野焼きの新たな魅力を発見させてくれた作品です。

4月号「寄り添う」大場真澄(福岡)

4月号「寄り添う」大場真澄(福岡)

【選評】マングローブのシルエットがドラマチックな光に映え、感動的な夕刻を迎えた作品です。手前に露出した夕日に輝く岩と、夕焼け空が反映した水面を広角で大きくとらえ、近景から遠景までパンフォーカスで描いています。穏やかな海面から、おそらく静かな夕凪の中、大場さんは焼けていく躍動感あふれる空と、静止した水面の対比が生み出したこの風景を堪能したことでしょう。

5月号「名残の池」大藤一郎(埼玉)

5月号「名残りの池」大藤一郎(埼玉)

【選評】枯れたハスの茎が折れ曲がり、花托が水面に浮いた光景。周辺の映り込みから冬枯れのハス池とわかりますが、花托を中心とした渦を巻くような水面の動きが不思議な感覚を伝えます。大藤さんはこれをねらっていたのでしょう、見事なシャッターチャンスでとらえました。水紋が広がりながら回転しているかのようで、光による色彩、質感、独創性、感情、インパクトなどの要素が高いレベルでまとまっています。

6月号「阿蘇LevelⅡ」大場真澄(福岡)

6月号「阿蘇LevelⅡ」大場真澄(福岡)

【選評】夜明け前の壮大な阿蘇山の様子をとらえています。空には満天の星と天の川が輝き、山には雲海が流れ、火山活動で噴煙や雲が赤く染まり、自然の神秘を感じますね。そして遠くには町の光が煌々と輝き、人の営みと火山活動の自然の猛威との共存を強く感じました。阿蘇山は過去にも何度か噴火し、大きな被害をもたらしています。大場さんはそのたびに山に畏敬の念を持って接し、共生の文化を考えてきたのでしょう。

7月号「珍現象」藤井美代志(茨城)

7月号「珍現象」藤井美代志(茨城)

【選評】審査中、圧倒的なインパクトを発揮した作品でした。花粉が大量に飛散し、太陽の光が当たって回折することで七色の光の輪ができます。藤井さんはその現象を水面に写して天地を逆にし、地平線から昇る太陽が虹色に彩られ、放射された光が天に向かって放たれているように表現しています。どのように見せるのがベストか十分検討されたのでしょう。演出がお見事です。

8月号「水面の奏」村上俊之(茨城)

8月号「水面の奏」村上俊之(茨城)

【選評】何度も見直しているうちに引き込まれた作品です。1秒のシャッター速度で泳ぐ鯉をぶらしたシンプルな構成ですが、ブレ具合が絶妙で静かな画面に動きが加わったうえ、色の重なりや奥行きが作品に深みをもたらし、アート的な美しさに惹かれました。村上さんはこの画面のイメージがすでにできていて、鯉の動きを見ながらシャッター速度を変えて射止めたのでしょう。素敵な作品です。

9月号「俺が森を守る」辻󠄀 巖(大阪)

9月号「俺が森を守る」辻󠄀 巖(大阪)

【選評】雄鹿の威嚇する姿を見事にとらえた作品です。鋭い眼光と大きな角、そして低く構えた姿勢は、まさに今にも突進してきそうな迫力があります。野生動物に出くわしたにもかかわらず、辻󠄀さんは冷静に鹿の目にピントを合わせ、周辺をぼかして鮮明に写し出すことで、やわらかい光を効果的に利用して毛並みの色、質感を立体的に描写。威嚇する野生動物の息づかいと迫力を見事に再現しています。

10月号「視線」白石淑子(広島)

10月号「視線」白石淑子(広島)

【選評】カエルとハチ、まるで異なる種族の友人が語り合っているかのような、温かい雰囲気が漂っています。薄紫の花にちょこんと乗ったカエルと空を舞うハチ、背景のボケが心を通わせ合う印象を醸し出していますね。視線が交わる瞬間を切り取った白石さんの集中力と、背景のボケを考えると絞ることができない被写界深度の中、両方にピントを合わせた卓越した技術がお見事。二人の世界観がより際立ちましたね。

11月号「摂餌」鈴木 守(北海道)

11月号「摂餌」鈴木 守(北海道)

【選評】審査中、強烈なインパクトで思わず手を止めた作品です。キタキツネが魚をくわえ、水しぶきを上げている瞬間がスローモーションのようにとらえられ、躍動感あふれる狩りの様子に心が惹きつけられました。黒い背景に、夕日に照らされた鋭い眼光と毛並みが際立ち、獲物を掴んでいる口元など野生動物の特長が克明に表現されています。自然の中で生き抜く生命力やたくましさを、あざやかに描き出した鈴木さんの表現力に拍手です。

12月号「光芒」吉良恵子(高知)

12月号「光芒」吉良恵子(高知)

【選評】画面全体に広がる静謐な空気感が印象的。雲間から朝日が差し込み、霧を透過してオレンジ色に輝く光芒を背景に、霧氷をまとった木々がつくる陰影は、冬山の厳しさに裏打ちされた美しさを浮き彫りにしています。吉良さんは山の稜線からのぞく朝日の輝度差を意識し、光のグラデーションを繊細に再現。霧氷樹の樹肌がギリギリ見えるシルエットでとらえています。被写体の美しさを最大限に引き出すスキルを感じました。