1月号「アフタヌーン」宮下信弘(長野)

1月号「アフタヌーン」宮下信弘(長野)
【選評】モノクロのフイルムで撮影し丁寧に増感現像、印画紙に焼き付けられた本作品には、上質で柔らかな午後の空気感が見事に表現されています。作者は身の周りのモチーフをテーマとして写真を楽しんでいるとのことですが、作者の明確なイメージと、それを具現化する経験とテクニックさえあれば、非日常の珍しい瞬間や被写体を求めて遠方に出かける必要はないことがよくわかります。①の被写体の配置と光と影の使い方が秀逸で、②の左側の空間のとり方もウマイ。③で雑多な生活感を読み、④の①とは反対側からの斜光のカットで作品を締めています。四面付けで応募されたことも、それぞれのカットの対比効果を計算されたものでしょう。③のテレビ画面の内容にチョッピリ違和感がありましたが、作品全体の完成度の高さを鑑みれば些細なこと、今後も身近で普遍的な日常の情景を綴っていただきたいと思います。
2月号「不穏」永廻賢二(大阪)

2月「不穏」永廻賢二(大阪)
【選評】今月は行く末を案じるようなイメージの応募作品が数点ありました。「コンテストの応募作品はその時々の“時代の鏡”である」と、我々の大先輩が説いていた記憶がありますが、そういう意味では、戦争や殺伐とした世情など、国内外の不安感が募る社会情勢を反映しているのかもしれません。そんな中で本作品はさすが大ベテランの作品、各々は非常に印象強い写真ですが、単写真ではギリギリ成立せず、組写真にすることでさらに強くバランスのよい完成作品になりました。①でガラス越しの表情のない人影で唐突に物語が始まり、②ではまるで犯罪現場の下足痕でつなぎ、③の何かを咥えたような鴉のアップで不吉度MAXの展開の後に④で余韻を残すような形で組の構成を締めています。丁寧に絹目調紙にプリントされたモノクロームの1:1の画面構成も観手に安定感を与え、それによって作品の持つ“不安感”や“ミステリアスなドラマ性”といった作品のイメージがさらに引き立っています。
3月号「カラフル漁具」川添廣満(佐賀)

3月号「カラフル漁具」川添廣満(佐賀)
【選評】フォトコンテスト作品には、どこか一発芸的な要素が魅力の場合もあると考えています。たとえば形の面白さや光と影の強いコントラスト、主役の魅力的な表情や個性的な構図の妙、などなど。そして本作品のような色彩のパンチ力、ある意味で広告写真に通ずるとも考えます。さまざまな漁具を写し撮った写真を組み上げただけのコレクション型の組写真ですが、それぞれのカットが構図と被写体構成の確かさと、異なる距離感を持たせることで単調になりがちな組構成にリズムを与えています。何よりも使い込まれた道具のみが派生させる少しくすんだような独特の色調とコントラストが、作品全体に大きなインパクトを与えていて、露出を少し抑え気味にしたこともその一助となりました。①の赤い浮きや③の大きな数字のカットなども観手に強い印象を与えます。高光沢紙にプリントして四面付けの構成で応募されたこともトップ入賞の一助となりました。
4月号「段々畑のスタジアム」福本文良(三重)

4月号「段々畑のスタジアム」福本文良(三重)
【選評】灘のけんか祭り「松原八幡神社秋季例大祭」の見せ場、御旅山の広畠練り場での絢爛豪華な大きな神輿がぶつかり合う様子は、ド迫力かつ衝撃的で観客を圧倒します。しかしこの作品は、クライマックスである屋台練りをあえて脇役にし、地元の方が先祖代々大切に受け継いできた摺鉢状の桟敷観覧席を主役のテーマにしたことが目を引きました。①で茣蓙シートなどの準備風景を広角で頂上付近から俯瞰し、②では祭りの屋台練りと観覧の人々で埋め尽くされた対岸の人の凝縮感を望遠圧縮で狙ったことで、①と②が対比関係となりました。少し宅地を入れることで、練り場の非日常空間と日常との二重の対比の面白さもあります。二枚組の対比に終わりそうなところを、③の練りのアップで軽く力技で繋ぎ、④の後片付けや茣蓙の天日干しのカットで祭りを楽しんだ後の虚脱感のような余韻で組構成を終えたことで、単にスケールが大きいだけでなく、読み応えのあるドキュメント作品となっています。
5月号「滅亡への誤信」松重輝夫(埼玉)
5月号「滅亡への誤信」松重輝夫(埼玉)
【選評】まるで妖術使いの般若が真っ赤な炎を口から噴いているようなインパクトの強い作品で、一次審査のときから存在感抜群でした。般若の合成の位置や赤と黒の色調配置、組を構成するカットの連続性への細かな配慮など、非常に丁寧につくり込まれており、左から右に向かう強烈なストーリーの流れも演出しています。グラスの映り込みを利用した撮影技法自体は昔からよく知られたテクニックですが、自身の新たな境地として作風を見出し、さらに自己模倣を感じさせない作品を生み続けることは至難の業。2月の今季初入賞時に今後の展開を期待して簡単なアドバイスを差し上げましたが、そこからすぐにアイデアを編み出して実行し、この作品を創出した、そんなスピード感のある明晰な作品構成力に驚嘆します。戦国武将の傾奇者が見れば、自分の庵の襖絵に採用しそうな大作です。
6月号「忍び逢い」髙木博規(愛知)

6月号「忍び逢い」髙木博規(愛知)
【選評】前月までの連作は、最後に満開の桜の下で佇む女性が先に逝った恋人を想うようなカットで終わっていましたが、今回は前回までとは少しテイストの違う恋の物語の始まりを感じさせる組写真です。身支度をするような艶めかしい女性のカットで始まり、ガラス文字盤の窓の写り込みが効果的な大きな柱時計のカットで“時間”の存在が感じられます。そして列車の分岐の鉄路が一つになるカットで組構成を終えることで、タイトル「忍び逢い」と呼応して、恋人と待ち合わせてどこかに向かう物語の背景や、禁じられた関係の二人の逃避行の遠路の始まりのようにも見えてきます。いつもながら縦位置三枚組でコンパクトな構成は無駄がなく、各々のカットの構図や光の入り方も秀逸。ディテールの再現がよいモノクロプリントも物語のイメージをより強く定着しています。作者の新たな恋の始まりを祝してトップに選びました。
7月号「漂流わんこ」崎田憲一(東京)

7月号「漂流わんこ」崎田憲一(東京)
【選評】作品全体のイメージとタイトルから、震災での津波被災犬かと一瞬感じましたが、実際は鹿島灘の海岸界隈に住むワンちゃんのようです。首輪をしているので野良犬ではないことを祈りたいところですが、組写真を構成する各カットからは海辺で一匹で生き抜いてきたこの犬の野良の強さを感じます。四枚構成の各カットが機能的に貢献し、①では美しい朝焼けの中のシルエットから物語が始まり、②で逆光に輝く前ボケの雑草や経年感のある金網などの中で振り返る様子で、この犬が生きる環境をうかがわせます。そして③の午睡の休息(実際は早朝撮影ですが)のカットで繋ぎ、最後の④で遠く鹿島灘の先を見つめている後ろ姿から、主人の帰りを待つ哀愁のような感覚を漂わせて物語を終えています。組を構成する各写真の構図・空間の取り方や光の扱いがとても効果的であり、犬のアップのカットを入れず、あえて少し距離感を持たせたことも孤高感を強めていて、一つのショートドラマの動画のような高い完成度です。落ち着いたテクスチャーのプリントも、この物語を定着させるのにふさわしい仕上げでした。
8月号「花より団子」江上正治(熊本)
8月号「花より団子」江上正治(熊本)
【選評】なんとも楽しくインパクトの強い作品で、花見で宴会中の人々に声掛けし、撮らせてもらうよう頼んで歩き回る作者の姿が目に浮かびました。特に④の存在が大きく、ほかの三枚は④で組構成を終えるための布石と言っても過言ではありません。各カットの登場人物は手元しか写っていませんが、それぞれが手にしている飲み物や総菜弁当・菓子などの嗜好の傾向や手に刻まれた齢の痕跡から、それぞれのグループがどんな集団なのかいろいろ想像が膨らみます。学友なのか会社の同僚か、それとも同窓会なのか……。最後の④に写る手を見ると、それなりにお歳を召された方たちのようで、ひとりだけみたらし団子なのはなぜだろう? などと推理が広がっていきます。一見すると奇をてらった構成と構図の一発芸的な作品に思えますが、実は大変読み応えのある組写真です。周辺を暗く仕上げることで主題に視線がストレートに誘導され、また④の見上げたアングルでの日中シンクロが推薦を決めた一発となりました。この作品を肴に缶ビール3本はイケそうです。
9月号「阿蘇の印象」佐海忠夫(栃木)

9月号「阿蘇の印象」佐海忠夫(栃木)
【選評】2016年に36年ぶりの爆発的噴火があり、現在も活発な火山活動を続けている阿蘇中岳は、日本の代表的な活火山ですが、ゴツゴツとした溶岩の岩肌が広がる雄大な“阿蘇のカルデラ”風景は大変魅力的な観光資源で、風景写真の人気のスポットです。作者はそんな活火山・阿蘇中岳を五枚組の精細なモノクロ写真で見事に表現。組写真のテーマとしては単調な印象になりがちな山のモノクロ風景写真ですが、本作品は阿蘇中岳を構図や被写体の構成に巧みに変化をつけて撮り分けています。噴煙の火口や広がるカルデラ台地の光景、印象的な雲のあるシーンなど、それぞれ違う山の表情のカットで構成することで、作者が40年ぶりに感じた雄大で清々しいまでの荒涼感がある阿蘇の「印象」を表現することに成功しました。特に突然の噴火に対処するためのトーチカのようなコンクリートのシェルターが点在するカットは、作品全体に妙な緊張感を与え大変効果的でした。なお、本作品は4月に撮影されているようですが、実はその後火山性微振動が増大し、「1」だった噴火警戒レベルが7月に「2」に引き上げられ、作者が撮影した火口周辺は現在立入禁止になっているという意味でも貴重な作品だと考えます。
10月号「黄砂の夕暮れ」岸田 緑(兵庫)

10月号「黄砂の夕暮れ」岸田 緑(兵庫)
【選評】春に大陸から日本列島にやってくる黄砂は視界不良だけでなく、大気汚染からの健康被害などさまざまな影響を与えていますが、視覚的にも黄色い砂塵に覆われることで普段見慣れた光景が、どこか非日常的に感じることもあります。この作品も黄砂の飛来によりアンバー系の霞に覆われた普段とは違う様相の海辺の情景に魅力を感じ、どこか懐かしさを覚えるような空気感を四枚組で巧みに表現しています。①の前ボケとなる雑草の位置が秀逸な、愛犬の散歩途中に公園のベンチで休憩する人物のカットから始まり、②はまるで船団を組んで大陸を目指して航海するような黄砂に霞む水平線上の船のカットが、組写真の全体構成の中で強く効いています。③の黄昏どきの波間のカットでストーリーをつなぎ、④ではそんな水平線の彼方を見つめるように配置されているレトロっぽい色調のバイクのカットで組写真を終えることで、どこか遠く海の向こう、離れ離れになっている大事な人を想う悲哀の物語さえ感じられました。「黄砂」からくる昭和歌謡の歌詞を想起するようなタイトルや組の構成も選者に響きました。それぞれは決して強い写真ではありませんが構図の整理もうまく、色調やトーンの仕上げも丁寧で、イメージの統一感の高さがこの作品の勝因であると考えます。
11月号「ふたりたび」江上正治(熊本)

11月号「ふたりたび」江上正治(熊本)
【選評】前月までの独創的な視点のアイデアが光る入賞作品とは違い、今月の江上さんは正統派のフォトストーリー型の組写真でトップ入賞となりました。本作は、お孫さんが夏休みを利用した帰郷時に、元フェリーターミナルに残された螺旋構造が特徴的な港のランドマークへとふたりで小旅行をしたときの様子を、ワイドレンズで巧みに切り撮ったシーンで構成しています。①②③で見られる不思議な空間と特徴的な建物の存在が、少女の表情や所作と相まって、ダンジョンの迷宮を探索する“ジイジと少女”のひと夏の冒険物語を強く印象づけています。④の、窓に風景が流れる車中で冒険に疲れて寝入るお孫さんのシーンを組写真の最後に持ってきたことも、過ぎる時間を切なく思うような夏のノスタルジーと余韻を感じることができてよかったと思います。組写真を構成するそれぞれのカットの構図や空間のとり方も秀逸ですが、欲を言えば①の暗部をプリントの加減で、もう少しだけ明るく仕上げられればと感じました。画面から映画『菊次郎の夏』の主題曲が聞こえてきそうな作品です。
12月号「台風の夜」小宮千原(三重)

12月号「台風の夜」小宮千原(三重)
【選評】天災級の天候の中での取材撮影を推奨はできませんが、そのときにしか撮れない特別な状況は確かに存在します。作者は台風の襲来で暴風雨が吹き荒れる街を果敢に取材し、その緊張感あふれる様子をカメラに収めています。レンズに付着した水滴によるオーブの滲みや、高感度設定とカメラのアートフィルター機能を使用した荒れ気味の画像とハイコントラストでのザラザラ感が、まるで防犯カメラの映像のようであり、台風の夜の緊張感と妙な高揚感を最大限に盛り上げています。テーマや取材対象によっては単純にキレイに仕上げることが正解ではない、それがよくわかる一例だと言えます。さて、この四枚組でもよいのですが、③が繋ぎカットにしてはほかと類似性が強く、ここは順番も入れ替えて②→①→④の順で三枚組で構成すると、もっと強い作品になると感じました。またタイトルはストレートな「台風の……」でもよいですが、「野分の夜」など、さらに文字の力を追求することで作者のセンスがより光ると思うのでご参考に。



