1月号「白線」大村マサル(大阪)

1月「動揺」橋本英幸(三重)

編集部:ある日のお母さんをとらえた作品です。
立木:日々の生活でもカメラをすぐ取り出せるようにしている姿勢がいい。 親を撮って作品にするなんて考えられ なかった。寂しいからさ。転機となったのはリチャード・アベドンが父親を撮ったこと。本人はモデルだと言って煙に巻こうとしたけど、 写真そのものの寂寥感は衝撃だった。
編集部:いまでは多くの人が撮影しています。
立木:日常の中で撮るって当たり前の空間にいるから工夫が必要。 カメラの前でこの表情というのはいつも撮っているから。自宅というスタジオで光をつかみ、表情を立体的に浮かび上がらせた。

2月号「休日の一時」髙倉 豊(静岡)

2月号「休日の一時」髙倉 豊(静岡)

編集部:軒先で寛ぐ女性の隣には換気排出用のダクトです。
立木:最初は楽器かと思ったかど、そうじゃなかった (笑)。 意外性で見る人の気持ちを引き寄せる種類の写真。 モノクロにしたからこそ、 光った質感が際立った。 それと対照的に優しい光がお母さんに差していて、 穏やかさもある。
編集部:表情が素敵ですね!
立木:隣にもう一人いるのはご主人かお友だちか。二人の会話があってのこの笑顔なのかもね。だとしたらその人物を入れたのも見てみたい。それでもダクトの存在感は変わらないからさ。 お母さんの手足の感じからもお人柄が伝 わるし、背景にある法被やハート型の風船なども生活感が伝わる脇役になっている。

3月号「空中移動」一井 強(徳島)

3月号「空中移動」一井 強(徳島)

立木:作者は、どこへ行くにもカメラを持っていくってことだけど、それが大事なんだよ、面白いシーンに出会って肉眼にしか焼き付けられなかった苦い経験がある人ほどそういう気持ちになるもの。
編集部:立木先生も車の中からでも撮りますよね。
立木:それでも悔しい思いをすることが多いよ。リフトに乗って撮ったとはいえ、クロスしていく瞬間だから、よっこらしょ、なんてノリじゃ撮れない。 それには大きなカメラよりポケットに忍ばせることができるカメラが最適。アッと感じて、 パッと撮れるのも技術があったからこそ、トリッキーな世界が生まれたと言っていいね。

4月号「咆哮」岡本早苗(徳島)

4月号「咆哮」岡本早苗(徳島)

編集部:雨の翌朝の光景で、 轟音にも驚いたそうです。
立木:最初見たときは雲海かとも思うほどだけど、 舞い上がった水煙もサイドからの光に照らされて浮き上がり、 自然に対するとき、 畏敬の念を持たなくてはというのを見 せつけているね。
編集部:モノクロにした効果もありますか?
立木:そうだね、本来なら茶色く濁っているのかもしれないけど、 白と黒だから肉眼の印象とはまた違っていると思う。車から降りて撮るってのは意外に億劫なこともあるけど、この種類の写真は撮る前にしっかり見ることが大事。 観察力があっての表現力だからね。

5月号「フォルム」島尻るりこ(愛知)

5月号「フォルム」島尻るりこ(愛知)

編集部:少年が手にしているのはクラゲだとか。
立木:F2.8 の開放絞りで撮り透明感のあるクラゲに視線 が集まった。クラゲの透けている印象を高めるためにやや アンダー気味にしたのかな。質感がよく伝わってくる。
編集部:いいボケ具合ですよね。
立木:少年たちの顔はもちろん、 背景もソフトクリームが溶けるようにボケていていいよ。ボーダー柄は舌出し天使を撮るときにいつの時代にもあるファッションで、と選んで着せたことがあったけど、昭和の写真にも令和の写真にも見える普遍性がある。 写真の評価は完成度だけではなく、現場の雰囲気を伝えられているかも大切になる。

6月号「八十八夜」松野啓司(静岡)

6月号「八十八夜」松野啓司(静岡)

編集部:眼下に天竜川。家族総出ですべてが手摘みです。
立木:急峻であるがゆえに家族の絆や生活することの大 変さを想像させる一枚。このご時世に家族が一致団結するのは素敵。手で行う作業はデジタル時代になり、さらにはAIによってどんどんなくなるだろうけど、これは別。そ う感じさせる説得力がある。
編集部:機械に頼れないからこそ尊いですね。
立木:こういう写真は次に撮影に行くときにプリントして差し上げることができたら素晴らしいよ。それが100年後に発見されたとき、同じ状態で存在しているかはわからないからさ。そういう意味でも訴求力の高い作品でした。

7月号「軒先で」髙倉 豊(静岡)

7月号「動軒先で」髙倉 豊(静岡)

立木:お客さんを迎えるためなのかドアを外す人の手、そしてカッパを切る人、そこを男性が横切る。空間で見るとそれぞれなのに写真として平面で見せるとなんだか関連があるように見えて不思議。写真の一瞬を切り取る醍醐味が詰まっている。
編集部:こんなシーンの繰り返しですが、カメラを持っているからこその世界ですね。
立木:カメラは肉眼を超えた世界を表現することができるから、ここは思い切ってもっと絞り、男性の顔もピントが合っていたらもっと面白い世界観となったかもね。とっさに反応した身体的な写真だけど、準備と予測が万端ならもっと凄かったってことだな。

8月号「夏雲さやか」おどみ岐諷(徳島)

8月号「夏雲さやか」おどみ岐諷(徳島)

立木:この写真でハッとさせられたのは、舞台を正面からではなく横から、しかもローアングルから撮っているところ。メインではない人物に焦点を当てて、主役に仕立てたのが面白い。奥の人物の写り方からもパースペクティブが生まれて、より動きのある写真になっている。
編集部:夏の雲が迫力を加えています。
立木:雲ってのは自然相手のことだからもうちょっと右に行ってとか言えないもの。それだけに自然と仲良くしておくことが大事。そう考えると屋外舞台写真の絶品と言える 逸品だね。

9月号「ヘルメット」宮本久男(茨城)

9月号「ヘルメット」宮本久男(茨城)

立木:右手を境に上はルーブル美術館とユニクロがコラボしたシャツに描かれたモナリザがいて、芸術は崇め奉るものから手近なところにやってくるという時代になったってのを感じる。
編集部:その手の下にはヘルメットにひな鳥たちがいます。
立木:道路を横断できなかった子たちを助けたってことらしいんだけど、いったい親鳥はどこにいるんだい? 人間界だけでなく自然界にも子どもの面倒を見切れない親がいるってのを感じて、上下の世界がいずれも現代を象徴していて実に奥深い一枚。推薦に相応しい!

10月号「波打ちぎわ」田中日登志(新潟)

10月号「波打ちぎわ」田中日登志(新潟)

編集部:橋の上から見下ろしての撮影です。
立木:浜辺を上から撮る位置ってなかなかないけど、いいポジション選びができたことが推薦の決め手になった。 浜辺から撮ると遠近感とか臨場感が出るけど、俯瞰して撮ったことで平面的になり形の面白さが強調された。
編集部:子どもの動きもいい瞬間をとらえています。
立木:足の形と影の形がちょっと違うところも面白いし、波の形だって二度とないものだし、そう考えるとこれは世界にたった一枚しかない写真。縦位置にしてデザインされた写真に見えるのもいい。波とのアンサンブルは実に良かっ たね。

11月号「T シャツと犬」一井 強(徳島)

11月号「T シャツと犬」一井 強(徳島)

立木:Tシャツアートというと高知県黒潮町の砂浜美術館 が有名だけど、徳島県でもやっているとは知らなかった。この松茂町には戦前に空港がって特攻隊の飛行場として使っていた。だからこの町の名前を聞くと、ハッとするところがあるんだよね。
編集部:朝の光ですかね。影が印象的です。
立木:推薦としたのは、 やっぱりこの影の魅力だよね。しかも横へ広がるTシャツアートを縦位置で撮ったことで狙いが明確になった。右端のTシャツに自身を重ね、ワンちゃんをモデルにしたところにも物語があって目の前にあったアートをさらにアートにした一枚と言える。

12月「必死!」松本直子(静岡)

12月号「必死!」松本直子(静岡)

編集部:子猫が木を登るところをよくとらえました。
立木:最初、木に何が張り付いているんだろうと思った。つまりは意表を突く写真なわけ。その理由は、猫の姿勢 の問題もあって普段はこんなに足が伸びているところって見ないよね。背中側から撮ったことでその面白さが強調されているけど、見たことがないから 「意表を突く」 と感じた。
編集部:背景も含めシンプルなので猫が浮かび上がります。
立木:写真表現はいろいろあって、 深いところまで読む種類のものもあれば、 このようにぐずぐず言わない単純にして明解なものもある。理屈ではなく見る人の心に届いた。