「旅をしているとつい自分が思い描く故郷を探している。
故郷ってなんだろうと思いながら、シャッターを切る。
人の温もりだろうか。」
まるで鳥の目になって下界を眺めたような鉄道写真。
写真家・吉永陽一さんは小型飛行機やヘリコプターに乗り、上空から、人間の営みを感じる鉄道写真作品を制作している。2018年春にフジフイルムスクエアで開催された写真展『いきづかい-いつもの鉄路』に合わせて刊行した『空鉄の世界-空から見つめた鉄道情景』は、そんな吉永さんの世界観がコンパクトにまとめられた1冊だ。
空撮といっても、衛星写真やドローンでのハイアングル映像に慣れつつある今、一見、撮影の様子は想像がつかないかもしれない。
列車のダイヤや通過する位置を下調べし、機体側面の窓を思いきり下へ傾けた飛行機から、体ごとカメラを下界に向けて撮影――それも、猛スピードで走り抜ける列車の一瞬を、上空を旋回する機体からとらえる。乱気流に揉まれる日もある撮影中、天井に頭をぶつけることは当たり前。「ジェットコースターに乗っていて下に落ちる瞬間のゾクッとする感覚が、数分おきに何度もくる」という。
そうしてとらえた「空鉄(そらてつ)」写真には、規則的に整然と並んだ線路や、広い茶畑の真ん中を走るSL、今は見ることが少なくなったビルの屋上遊園地、時代の移り変わりによる駅周辺の変化など、見れば見るほど「発見」する楽しさがある。
吉永さんの作品に欠かせないもうひとつの要素は、どこか懐かしい、スクエアフォーマットのフィルムカメラで写されたスナップ写真。生活の足として存在する「鉄道」と、人びとの「暮らし」がそこにある。
空でも地上でも「いつもの鉄道」を追う吉永さんは、「どうしても日常が気になる」という。書籍『空鉄の世界-空から見つめた鉄道情景』では、「里」「まち」「都市」の3章にわたり、人びとにとっての鉄道の姿が、文章とともに描き出されている。
イベント情報
【写真家たちの新しい物語】吉永陽一写真展「いきづかい-いつもの鉄路」
会場:富士フイルムフォトサロン 大阪 スペース1
期間:2018年8月31日(金)~2018年9月6日(木)
10:00~19:00(最終日は14:00まで/入館は終了10分前)
プロフィール
吉永陽一
よしながよういち・1977年東京都生まれ。大阪芸術大学写真学科卒業後、建築模型製作会社スタッフを経て空撮会社へ。フリーランスとして空撮のキャリアを積む。長年の憧れであった鉄道空撮に挑戦し、2011年の初個展「空鉄(そらてつ)」を皮切りに、個展や書籍などで数々の空撮鉄道写真を発表。「空鉄」で注目を集める。空撮はもとより旅や鉄道などの紀行取材も行い、陸空で活躍。
2018年5月10日発行 定価:1,000円+税
ISBN: 9784865620672
サイズ:A5判64ページ