1月号「ざわめき」今 明美(北海道)
【選評】心地よい日向ぼっこから一転、猫たちが身を寄せ合って警戒しています。一気に緊張が走る場面ですね。猫の視線の先には複数のカラスがいるのでしょうか? 画面右にカラスの大きな影を取り込んだ画面構成が秀逸です。見る側の恐怖心をあおる影の効果は抜群ですね。一見廃屋のようにも見えますが、猫を撫でている人物も写り込んでおり、見れば見るほど絵解きが楽しくなってくる傑作。(榎並悦子)
キヤノンEOS80D・EF-S15〜85ミリ・F5.6・1/1000秒・ISO100・エプソンEP-4004・ピクトリコフォトグロスペーパー/小樽市・4月中旬,13:00頃
2月号「駅前」内田昌人(三重)
【選評】向こうに見える山々、光の美しいススキ、ゆったり動いているかのような電車。何とはないシーンにも見えますが、ここにご夫婦でしょうか、二人の存在がこの作品に大きな意味を感じさせます。腰が曲がり買い物袋を下げた男性に、疲れてか切り株に腰を下ろす女性。仕草からここでの空気のような関係性、言葉にならない会話までもが伝わってくるようです。また全体が柔らかい色合いで優しく、すべての瞬間の光景が目に留まる作品となっています。(佐藤倫子)
キヤノンEOS7D MarkⅡ・EF70〜300ミリ・F7.1・1/100秒・ISO100・キヤノンPIXUS PRO-10S・ピクトリコプロフォトペーパー/津市・11月下旬,15:00頃
3月号「ボクのお嫁さん」増田哲子(福岡)
【選評】微笑ましい一瞬の光景が切り撮られています。少年の表情からは「きれいだなぁ……」という純粋な気持ちと「ボクがそばにいるからね」という晴れがましさとが、ないまぜになっていることがうかがえます。そしてこの小さなナイトにエスコートされている花嫁さんの笑顔の素敵なこと! みんなを笑顔にする幸せの空気に満ち満ちた作品です。フレーミングも絶妙で、画面奥の赤い矢印が右から左への動きを促し、構図上少し空いている右側には来し方が表されているように感じられます。(秋元貴美子)
キヤノンEOS5D MarkⅡ・EF24〜105ミリ・F9・1/160秒・ISO200/福岡市・3月下旬,14:00頃
4月号「フィナーレ」白山健悦(青森)
【選評】水面に渦を描く桜の花びら。大きな同心円には特別なパワーが存在しているように感じ、見ていると吸い込まれそうです。花びらの散るころは、どこかさみしさを覚えるものですが、晴天のおかげで美々しさが強調されました。この天候でこれだけの長秒撮影を成功させたのはNDフィルター2枚重ねという秘策だったようです。お見事、というか迫力ある花筏を撮ってやろうという執念を感じました。右側の影がいいアクセントとなり締まりも出ました。中央奥のテントは気になりますが、それに負けない創意工夫が実を結んでいます。(榎並悦子)
ソニーα7RⅡ・FE16〜35ミリ・F7.1・ND1000,ND64・30秒・ISO200・エプソンEW-M973A3T・エプソン写真用紙クリスピア・三脚/弘前市・4月下旬,13:00頃
5月号「二十歳の春」増田晶子(静岡)
【選評】マスクに着物姿の女性が俯き加減で歩く姿が目に留まり、第一印象は明るい写真とは思えないのが、視線が頬かむりをした石像に流れると、微笑む石像がこの女性を温かく見守っているようにも見えてきて、温かい印象に変わります。タイトルから成人式であることも伝わり、直球な表現ではない作者のセンスを感じます。しっかりとした石像の存在感、着物姿の女性との距離感も絶妙です。また全体の暗めな色合いもよく、奥行きを感じさせる構図。物語を想像させる一枚です。(佐藤倫子)
キヤノンEOS RP・EF-S10〜22ミリ・F9・1/125秒・ISO1000・エプソンSC-PX5VⅡ・松本洋紙店絹目調/浜松市・1月上旬,11:00頃
6月号「それぞれの会話」若林 茂(静岡)
【選評】おばあさん同士の会話は声を出して、少女と猫ちゃんの会話は目と目でかわしテレパシーで会話しているかのようです。ローポジションで撮ったことで猫の視線と同じ高さになり、不思議な空間が演出できています。背景のレトロさも効果的です。左の女性が猫を撫でようと手を伸ばしていて、ほのぼのとした空気も漂います。この“クロス交流”という、当たり前の日常にある不思議な瞬間が見事にとらえられています。(秋元貴美子)
キヤノンEOS70D・EF-S18〜200ミリ・F5.6・1/80秒・ISO1250・キヤノンPIXUS PRO-100・キヤノン写真用紙絹目調/豊田市・11月中旬,16:00頃
7月号「最後の水揚げ」松浦昭宏(静岡)
【選評】船から陸に揚げられる巨大な冷凍マグロによって周囲の空気が一気に冷やされ、水滴が煙のように広がっています。その様子をじっと見守る男性。口元をぎゅっと結んだ渋い表情を逃さずとらえています。一年の大半をマグロを求めて洋上で過ごしてこられたのでしょう。何年も、何十年も。時間が止まったような静かな光景ですが、過冷霧が息のようなイメージで動を感じさせるところにも着目しました。端的なタイトル、あとは推して知るべしです。(榎並悦子)
キヤノンEOS5D MarkⅣ・EF70〜200ミリ,2×・F5.6・1/400秒・ISO400・キヤノンPIXUS PRO-100・松本洋紙店絹目調/焼津市・8月中旬,10:00頃
8月号「紅」丹下利勝(愛知)
【選評】主役を右に置き、左は光と影を上手に生かしてとらえていて、この絶妙な構図が作品の印象を深めています。鼻から上が写っていないことで想像が膨らみ、何かストーリーが生まれてきそうです。半開きの唇が色気を感じさせますが、口角がカサついていたり紅の塗り具合が雑なところから、初めて男性だとわかります。バスの窓越しならではの色味やアングルで綺麗にまとめられていますね。(佐藤倫子)
キヤノンEOS5D MarkⅢ・EF24〜105ミリ・F4・1/250秒・ISO400・エプソンSC-PX1V・コクヨプロフェッショナル写真用紙高光沢/豊川市・7月下旬,13:00頃
9月号「ご近所さん」今 明美(北海道)
【選評】ドラマのワンシーンのような印象的な作品です。まず目を引くのは「これお裾分け!」とばかりに笑顔でやってきた女性は、どちらからの頂き物かを伝えるようにか左手を高くあげています。対して「まぁまぁ悪いわね〜」と応えている女性の声が表情から聞こえてきます。そしてその二人を背景に、少女と猫が遠くを見やっています。何を発見したのでしょうか。すべてが画面右から「何か」が始まる秀逸な作品になっています。さらに、割烹着の女性の後ろの道も入れたことで画面に奥行きが出て、より臨場感が増している巧みな作品です。(秋元貴美子)
キヤノンEOS80D・EF-S15〜85ミリ・F8・1/125秒・ISO1000・エプソンEP-4004・ピクトリコプレミアムフォトグロスペーパー/苫小牧市・7月中旬,16:00頃
10月号「梅雨明ける」寺田義彦(滋賀)
【選評】リズミカルで楽しいなぁというのが第一印象。子どものころは雨の日も楽しいものだったなという記憶がよみがえりました。本来は雨の日に出番となる傘ですが、晴天の日差しにビニール傘の色が投影されて地面に描き出されたカラフルな模様は、子どもの関心も惹きつけたようです。影の少女とふたり遊び。カメラアングルが非常にいいですね。下からの撮影だと、この気づきはなかったかもしれません。天候、少女、アングルと三拍子揃った傑作です。(榎並悦子)
ニコンZ 6・ニッコールZ 24〜70ミリ・F18・1/800秒・ISO800・エプソンEP-30VA・エプソン写真用紙/草津市・6月下旬,16:00頃
11月号「佇む農夫」岡本早苗(徳島)
【選評】すべてが完璧、と感じました。主役の農夫にお願いをして演出したという構成が、先入観も違和感もなく自然と受け入れられ、味わいのある佇まいの農夫が目に焼き付きます。作者の狙いどおり、霧も現れ、そして手前の緑がぐっと引き立って写し出されました。用紙の選択も作者の意図をうまく反映しているように思います。丁寧な一枚に仕上がっていますね。(佐藤倫子)
ニコンZ 6Ⅱ・ニッコールZ 24〜200ミリ・F6・1/2500秒・ISO800・エプソンSC-PX1V・ピクトリコセミグロスペーパー/徳島県上勝町・7月上旬,12:00頃
12月号「佳日」山崎秀司(兵庫)
【選評】ピリッとした緊張感が漂う空間を大胆な構図でとらえた優れた作品です。ハレの日、花嫁さんがピシッと背筋を伸ばして寿ぎの刻を今かと待っています。一方、周りは準備でてんてこ舞い。その静と動の対比が一枚の中に凝縮され、見事に表現されています。モノクロの表現にしたことで白無垢がいっそう冴えて目をひき、花嫁のきゅっと結んだ口元、真っ直ぐ一点を見つめる静かな目がとても印象深くなりました。(秋元貴美子)
ニコンD3S・AFニッコール24〜70ミリ・1/100秒オート・ISO6400・エプソンPX-5500・エレコム写真用印画紙/鳥取市・11月下旬,10:00頃