1月号「アフターヌーン」田中万三(愛媛/二人の会)

1月号「アフターヌーン」田中万三(愛媛/二人の会)

【選評】今までにあまりない作風にまず目を留めました。たった3枚ですが映画のワンシーンのような印象を見るものに与えています。なにか決定的瞬間が起きているわけでもない日常の気だるい午後。映画のカット割りのようにリズムよく、意味深に展開しています。かえって3枚という情報量の少なさが見るものにさまざまなストーリーを想像させることができました。「表情」という情報も排除することによって、いつかどこかで見たシーンのような共感を呼び起こすことができています。静かな表現ではありますがゆったりとした動きを感じられ、そこにあるわずかな音、カーテンの揺れる音、歩く音、そしてマニキュアの匂いなど、その場所の「空気」が感じられるような気がしました。

休日の女性が醸す気だるい雰囲気を表現してみました。
ニコンZ 6Ⅱ・FE16〜35ミリ,FE55ミリ(アダプター使用)・①F5.6・1/10秒・ISO200②F2.8・1/125秒・ISO1600③F5.6・1/10秒・ISO400・エプソンSC-PX5VⅡ・松本洋紙店絹目調/大洲市・5月中旬,14:00頃

2月号「Max」林邦良(静岡/全日写連御殿場支部)

2月号「Max」林邦良(静岡/全日写連御殿場支部)

【選評】この表現は意表を突かれました。ただでさえ少ない2枚組の表現。1枚の巨大な作品のように2枚をうまくつなげました。しかし、ただ2枚をくっつければ面白くなるかといえば、そんなことはありません。やはり被写体との相性が重要です。本作の被写体は10月で運行が終了した新幹線MAXという時事性に加えて、その正面から見たフォルムは独特で非常にフォトジェニックです。一見すると1枚写真に見えますが、そのつながりのズレを見るとうまく2カットを撮り分けているのがわかります。そしてそれぞれに人を通して違ったドラマを写し出しています。たった2枚ですが、非常にドラマチックなストーリーを感じる表現となっています。2枚組の面白さをうまく引き出した作品です。

2枚で1枚の写真とする面白さと、車両独特の顔つきを表現してみました。
ニコンD610・AFニッコール28〜300ミリ①F5.6オート②F8オート・ISO400・エプソンSC-PX1V・ピクトリコプロセミグロスペーパー/東京・8月上旬,13:00頃

3月号「紙吹雪」長倉行雄(神奈川/キヤノンフォトクラブ神奈川)

3月号「紙吹雪」長倉行雄(神奈川/キヤノンフォトクラブ神奈川)

【選評】紙吹雪の量が圧倒的な祭りです。実際それほどではないかもしれませんが、撮影者が上手くボリューム感を出す表現で写し出したのかもしれません。その華やかさと迫力に圧倒される作品となりました。作品として評価できる点はその撮り分けです。紙吹雪という軸をしっかりと置き、それぞれのシーンを構図に変化をつけて、様々な表情を見せることができています。「見上げる」「通常の高さ」「見下ろす」と目線の高さの変化が上手く効いていて、3枚という枚数以上の情報量を感じることができました。それぞれが単写真としても力のある作品になっています。表情や動きも活き活きしていて祭りの楽しさや躍動感を少ない枚数できっちり表現できています。

紙吹雪に圧倒されたお祭りでした。ふと子どもの頃を思い出しました。
キヤノンEOS5D MarkⅣ・EF16〜35ミリ,EF24〜105ミリ・①F8・1/125秒・ISO200②F5.6・1/250秒・ISO400③F8・1/400秒・ISO800・エプソンSC-PX1V・エプソン写真用紙クリスピア/豊田市・10月中旬,15:00〜16:30頃

4月号「師走の神事」田中博文(滋賀/石鹿フォト研究会)

4月号「師走の神事」田中博文(滋賀/石鹿フォト研究会)

【選評】琵琶湖で行われている水行を切り撮った作品です。水行といえば、多くは激しい水の表情を写したものを想像すると思います。本作は全く逆の表現になっているところに興味を惹かれました。なんとも静かで厳かな現場の空気感を見事に表しています。そこには水・火・風という自然な表情がそれぞれ写し出されています。特に風は④の写真で、正直風になびいているわけではありませんが、その形状から風のゆらぎを感じさせることができていて、イメージで自然の要素を魅せるテクニックの高さを感じます。そして表現的に面白いのが構図の統一感です。焦点距離の差を感じにくい構図バランスを取って全体の統一感をさりげなく作っているところが秀逸でした。

琵琶湖での水行を通し、古の人々の畏敬の念が伝わればと思います。
キヤノンEOS6D MarkⅡ・EF24〜105ミリ・ケンコーID(W)・F4・①1/1000秒②1/3200秒③1/2000秒④1/4000秒・ISO100・エプソンSC-PX5VⅡ・キヤノン写真用紙絹目調厚手/野洲市・12月上旬,9:00頃

5月号「奇祭な面々」尾内 泰(埼玉)

5月号「奇祭な面々」尾内 泰(埼玉)

【選評】古式ゆかしき祭りとはちょっと違うようです。変わったお面を集めた祭りだそうで、記憶にあるその姿と少しズレが生じます。そんな違和感をうまく表現できている作品です。三枚すべて正面からのカットでそろえ、表情の豊かさを強調した表現になっていますが、その魅せ方は三者三様に変化をうまくつけられました。中央のカットのみ実際の人間の顔を魅せた写真がアクセントとなってうまく効いていますが、人の顔のみではなく背景にさりげなく面を重ね、しっかりと統一感も取れています。語りすぎず変化も効いた、シンプルながら上手い作品構成です。組み合わせで旧作を生き返らせた、良い例になると思います。

ペンタックスK-5・タムロンAF18〜250ミリ・①F5.6・1/60秒②F6.3・1/125秒③F4.5・1/60秒・ISO400・エプソンPX-5V・エプソンフォトマット紙/鎌倉市・9月

6月号「禅の日々」宮田哲志(静岡/サークルBEE舞阪,BN21)

6月号「禅の日々」宮田哲志(静岡/サークルBEE舞阪,BN21)

【選評】非常にシンプルに禅寺の日常を切り撮った作品です。いっさい顔を写さずパーソナルに触れない表現は、見る者のイメージを膨らませます。そのぶん手の表情で動きや変化を感じさせる手法は、組のリズムや変化を感じさせる効果があります。そして、そんな表現ですべてまとめるかと思いきや、ラストの④で上半身のシルエットの引き画を挿入し、見事に変化をつけた締めくくりを感じさせました。加えてそこに印象的な影、という一本の軸ですべての写真をつなげる表現ができており、まとまり感を与えています。そんな組写真ならではの複数枚で魅せる表現がハマった作品になったのではないでしょうか。最小限の情報で多くを物語ることに成功しています。

2禅寺での日常の雰囲気を壊さないように注意しながら撮りました。
キヤノンEOS Kiss X7i・EF-S18〜55ミリ,ソニーα7RⅢ・E18〜200ミリ・①F18・1/100秒②F16・1/125秒③F11・0.6秒④F16・1/640秒・①③④ISO1600②ISO100・三脚・エプソンEP-50V・エプソンベルベットファインアートペーパー/浜松市・2月下旬,14:00頃

7月号「新春初泳ぎ」平山 弘(和歌山/ニッコールクラブ紀南支部)

7月号「新春初泳ぎ」平山 弘(和歌山/ニッコールクラブ紀南支部)

【選評】神聖な初泳ぎの儀式、のはずなのに、なんともコミカルに描かれており、パロディ映画を見るような気分になりました。全体の表現として広角の構図で撮りきっています。ここがテーマであるとともにすべての作品を繋ぐ鍵になっています。広角で腰の引けた構図にならないよう、本作は思い切った寄り引きを活用し画にバリエーションを付けています。さらにアングルの高低差をうまく使い、バリエーションに幅をもたせています。①の神主のカットは比較的標準寄りですが、②では広角が生む「間」を、③と④は奥行きを使って変化のある表現ができています。そこに躍動感のある動きが加わって、枚数以上のバリエーションの豊富さを感じさせることができたのではないでしょうか。

お正月は、太平洋戦争中もコロナ禍でも中止なく続く「新春初泳ぎ」の撮影です。
キヤノンEOS R・EF16〜35ミリ・①F13・1/640秒②③F11・1/500秒④F10・1/400秒・ISO800・キヤノンPIXUS Pro9000 MarkⅡ・HPスタンダード速乾性半光沢フォト/田辺市・1月上旬,10:00頃

8月号 「春爛漫」倉田れい子(兵庫/EOS川村会,彩り写真クラブ)

8月号 「春爛漫」倉田れい子(兵庫/EOS川村会,彩り写真クラブ)

【選評】徐々にですが社会の表情が元の姿に戻りつつあります。その代表と言ってよい祭事。こじんまりと、でも確実にあの華やかさが戻ってきているニュースを耳にします。2年ぶりの開催。撮るほうも参加するほうもややぎこちなくその感触を思い出している気がします。そんな戸惑いにも似た感情が少しトーンの重い仕上がりに反映しているように思えます。まだ底抜けに楽しめない、しかしその姿は美しく荘厳です。あえて観客を写さないことによってざわつき感を抑えるのと同時に、マスクが目立ちすぎる“時代感”をあえて出さない表現で切り撮っています。祭りそのものの色やデザインの魅力を、人々の表情を写さないことによって浮かび上がらせています。

2年間待ちわびた祭が再開し、人々の高まる感情や活気が伝わるよう撮りました。
キヤノンEOS5D MarkⅢ・①④EF70〜300ミリ②③EF24〜105ミリ・ ①F4.5・1/500秒②F8・1/1000秒③F4・1/60秒④F5.6・1/180秒・①ISO200②③ISO50④ISO100/キヤノンPIXUSPRO-100S・キヤノン写真用紙光沢ゴールド/加西市・4月上旬

9月号「MAZE」山本芳子(高知)

9月号「MAZE」山本芳子(高知)

【選評】タイトルの「MAZE」(迷路)というところから意味深なドラマがスタートします。嵐の漁港、すべての画から緊迫感がにじみ出ています。迫力と重みのある表現がまるで災害映画のワンシーンを見るようです。限られたシチューエーションでシーンの撮り分けもしっかりとできています。特に効果的に使っている写真は、漁師の網に寄って撮影された③です。Tシャツでしょうか、狼の鋭い表情がさらに不吉な予感をさせています。この寄りのカットが状況写真だけではない、よいリズムを作りました。①の雨に濡れるガラス越しのカットも効いています。打ち付ける雨音が聞こえてくるようです。ややアンダーめの表現でそろえ重厚な作品に仕上げることができています。

夏の南風、嵐の前兆に漁師たちも警戒し、狼の牙で映画のような迫力を出せたら。
パナソニックLUMIX FZ-1000・25〜400ミリ・①F8②③④F5.6・①1/500秒②1/160秒③1/13秒④1/400秒・①④ISO800②③ISO1600・キヤノンPIXUS PRO-10S・キヤノン写真用紙光沢ゴールド/高知県黒潮町・5月上旬,13:00頃

10月号「春の大阪城公園」下村いさお(奈良)

10月号「春の大阪城公園」下村いさお(奈良)

【選評】非常に狭い範囲の被写体です。一つの公園の中で起こったさまざまな小さなドラマをバリエーション豊かに撮り集めることができました。それぞれの表情が活き活きしていて、なんとも楽しげな気分にさせてくれます。さらにそれらがちょっとユーモラスなと ころが作品の面白みやスパイスとなって効いています。ほとんどの作品に共通して言えるのが登場人物の多さです。さまざまな人々がフレームに収まることによって交流や関係性が生まれます。それが見る人の想像力を掻き立てて思い思いのストーリーを自由に想像させ、面白いドラマを完成させるのです。これ を可能にしたのがシャッターチャンスの絶妙さです。ここ、という位置関係が成立して初めて交流が生まれるのです。

春の大阪城はいろんな人でにぎわいます。その人たちの様子を組んでみました。
ニコンD750・AFニッコール24〜120ミリ・F8・1/250秒・ISO200・エプソンSC-PX5VⅡ・コクヨ写真用紙絹目/大阪市・4月上旬,14:00頃頃

11月号「ビューティースマイル」浅岡由次(愛知/フォトファミリー写心)

11月号「ビューティースマイル」浅岡由次(愛知/フォトファミリー写心)

【選評】予想以上にコロナ禍が長引き、もはや忘れかけているもの。それは“活き活きとした表情”です。日々の生活で顔が見えないコミュニケーションはどこかいびつになりがちで、ストレスが溜まるものです。これは撮影でもまったく同じです。我々は豊かな表情の被写体に飢えているのです。本作はそんな“見たかった”美しい笑顔の連続ですが、魅せ方に工夫があります。超広角で人々の真下から見上げての撮影で、フォトジェニックな背景と構図を気持ちよく演出しています。さらにそれらの組み合わせにしっかり変化がつけられていて、登場人物も豊富で見ていて飽きません。今あえてこんな瞬間に出会いシャッターを押したい、そんなポジティブな気分にさせてくれる爽快な作品でした。

撮影後半にいつも下から集合カットを撮ります。笑顔の歓声で楽しい時間です。
キヤノンEOS Kiss X7i・トキナーAF10〜17ミリフィッシュアイ・①F18・1/80秒②F11・1/180秒③F13・1/200秒④F10・1/500秒・①ISO200②③④ISO400・①②④ストロボ/碧南市,高浜市,安城市,知立市

12月号「化身」辻 慶二(高知)

12月号「化身」辻 慶二(高知)

【選評】非常に力強い作品です。ファンタジーの物語のようなストーリー展開を重厚な空気感でまとめ上げました。組としてのリズムや展開も緻密に計算され、魅せる力を最大限に活かした表現になっています。一枚一枚の仕上げの重いトーンが作風にマッチしていて、シャドウをたっぷり使い、ほのかな光の存在感を見事に演出できています。闇夜に行われる秘めごと、そんなドラマを見ているような感覚になりました。しめ縄のカットが印象的で、あえて明るく写さず、深い闇夜を感じさせる仄暗い仕上げが効いています。巫女さんの表情もなんとも言えない雰囲気で写し出されています。すべてが一本にまとまった見事な作品です。

キヤノンEOS5D MarkⅡ・EF24〜105ミリ・①④⑤F4②③F5.6・① 1/800秒②③1/125秒④1/10秒⑤1/640秒・①ISO100②③ISO400④⑤ISO800・キヤノンPIXUS PRO-10S・キヤノン写真用紙光沢ゴールド/須崎市・9月下旬,14:00頃