1月号「ゴンドラの清掃人」北村修一(香川/日本リアリズム写真集団,光画塾)

1月号「ゴンドラの清掃人」北村修一(香川/日本リアリズム写真集団,光画塾)

――ゴンドラに乗ったら一両ごとにホースで清掃していたようです。
立木 営業中に清掃するんだね(笑)。デジタルカメラになってピントがシャープな写真が多くなったけどF 1.8のような開放絞りで撮った写真ならではのものってやっぱり魅力だよ。この写真は逆光を浴びて光るホースの水に焦点が合っていて、背景のボケもいい。
――人物がシルエットなのも印象的です。
立木 画面両端も黒で締めているから水のハイライトや濡れた床の映り込みが生きている。偶然の出合いに反応できたから撮れた一枚だよね。

ソニーα9Ⅱ・FE35ミリ・F1.8・1/500秒・ISO100・キヤノンPIXUS Pro9000 MarkⅡ・富士フイルム「画彩」写真仕上げ光沢プレミアム/高島市・8月上旬,15:00頃

2月号「主演女優」佐海忠夫(栃木/全日写連サン支部)

2月号「主演女優」佐海忠夫(栃木/全日写連サン支部)

立木 ゲネプロかなと思うほどの雰囲気だけど、演技した目と小道具に向けてストロボの光をまっすぐに当てたことで、存在感を高めた。こういう場所に入れる関係者なのかな。限られた時間でも狙い通りに撮れるのは経験が豊富なんだろうと思う。
――背景にいる人たちは我関せずです。 
立木 公演を控えて必死なんだろうけど、主演女優だけはこの余裕。そんな対比も魅力だね。これは一枚で語る力があるけど、舞台裏を撮り続けるとストーリーを写真で表現できるから、想像力を働かせて撮ってほしいね。

キヤノンEOS5D MarkⅡ・EF24~105ミリ・F6.3・1/160秒・ストロボ・ISO3200・キヤノンPIXUS PRO-10S・富士フイルム「画彩」プロ/栃木県茂木町・11月中旬,16:00頃

3月号「疵」長谷川今人(千葉)

3月号「疵」長谷川今人(千葉)

――大みそかに廃墟と化した倉庫で友人を撮ったもの、ということです。
立木 暮れに写真を撮っていられるなんてうらやましい限り、家のことは済ませてきたのかな。演出して作り込まれた写真ではなく、往年の名作といった雰囲気で令和の時代の流れには乗っていないので違和感がある。だからこそ気になるんだ。今はもうひとつ驚きを入れることが多いから時には蛇足になることも。
――タイトルはシンプルですがイメージが伝わります。
立木 この「疵」って生き物のケガではなく、モノの欠点や欠陥を意味する。作者は心の傷を描きたかったようだけど、ロケ場所の感じや演じる人物をモノに見立てると雰囲気も伝わり、タイトルの深さが見えてくる。

ニコンF3・ニッコール50ミリ・F5.6オート・ネオパン1600プレスト・イルフォードMGⅣ/木更津市・12月下旬,15:00頃

4月号「サイン」小宮千原(三重/写真集団トマトジュース)

4月号「サイン」小宮千原(三重/写真集団トマトジュース)

――初日の出の撮影ということです!
立木 そうなの(笑)。写真って今までの伝統の上に乗った作画が多いものだけど、そんな伝統などを簡単に飛び越えて感性で撮った写真。二人の関係を想像したり、「2・2・3」という暗号を読み解こうとしたけどダメだった……。
――太陽が出ないと撮るのを諦める人が多いと思いますが。
立木 スナップを撮る人の初期の衝動みたいなものも感じるし、宇宙にいる相手に信号を送っているようにも見える。コロナの中で一歩前に進もうという気持ちを感じる一枚。外に飛び出せばこんなチャンスがあると思うと、心の底から楽しめる日が早くきてほしいと願うばかり。

キヤノンEOS80D・EF-S55~250ミリ・F8・1/125秒・ISO1250・エプソンEP-10VA・エプソン写真用紙絹目調/津市・1月上旬,7:00頃

5月号「シャワー」中原秀夫(岡山/吉備路写真クラブ)

5月号「シャワー」中原秀夫(岡山/吉備路写真クラブ)

――ベルトコンベアーで牡蠣の殻と水に選別、実を食べにカモメが集まる、飛沫を撮っていたらフェリーが入ったと。
立木 みんなカメラマンのために演出してくれたわけで、感謝のしようもないくらい見事な光景の連続ってわけだ。写真を長くやっているとこういうことが時々起こる。
――そのチャンスをつかめるかどうかですね。
立木 しょっちゅうあることじゃないから、こんな光景を見逃している人ってたくさんいると思う。だからカメラマンは常にアンテナを張っておく必要があるわけ。写真がいいとか悪いを超えて、次から次へといろんなものが来た。眼差しは一点を見つめているといろんな変化が起きることを示しているね。

ニコンD700・AFニッコール28~300ミリ・プログラムオート・ISO1600/備前市・11月下旬,10:00頃

6月号「手招き」望月椋瑛(三重)

6月号「手招き」望月椋瑛(三重)

――畑にあったドラム缶です。
立木 写真ってさ、こんなところに気づくかどうかなんだ。つまりは何を見て、どう感じるか。これをつまんないと思ったらシャッターなんて切らないでしょ。ちょっとした違和感に反応できるかどうかが差になる。なんでここに手袋があるのかわからないけど、ふっくらした感じがまるで手のように見えて一瞬ドキッとした。
――穴が口のようにも見えるし、見方もいろいろできます。
立木 いまや焚き火もままならない時代。南海地震のときに親父と外で焚き火をしたら警官に怒られた記憶があるんだけど、今はいろんな目が光ってもっと火を焚くことなんてできない。それをストップする手のようにも見えて興味深い。

ソニーα7RⅡ・タムロンAF70~180ミリ・F3.5・1/160秒・ISO100・キヤノンPIXUS TS8330・ピクトリコセミグロスペーパー

7月号「花火見物」阪口誠紀(静岡)

7月号「花火見物」阪口誠紀(静岡)

――ホテルのガラスに映り込む花火ですね。
立木 圧巻! 1/4秒というスローシャッターの光跡が、まるでガラスを砕いているかのように見える。カラーだと色で見てしまうけど、モノクロにしたことでよりそう感じるのかもしれないね。
――部屋の様子が見えるのも面白いですね。
立木 灯りを消して見る人もあれば、灯りを付けたままの人もいる。見え方にどう差が出るのかわからないけど、そのおかげで部屋で何をしているのかが見えた。一番上は、ゴルフのスイングかと思ったけど、そんなわけないよな(笑)。この感じからするとスマホで撮っているんだろうね。都市の貌って時間帯で変わるという例でもある。

ニコンD750・AFニッコール24~120ミリ・F16・1/4秒・ISO500・三脚・エプソンPX-5V・松本洋紙店絹目調/静岡市・7月下旬,20:00頃

8月号「待ち人」柄松 稔(兵庫)

8月号「待ち人」柄松 稔(兵庫)

立木 一瞥すると無関係な男女だけど、見る人の勝手で妄想すると至近距離にいながら会うことのできない、かなしい二人にも見える。それぞれの背景がシンプルであるがゆえに、別の空間を重ね合わせたようでもあるね。
――切り取りの妙ですね。
立木 シンプルってことは情報量はなくなるけど、存在感は高まる。それゆえに登場人物が何をしているかが重要になる。スマホを一時も離せないという証拠写真だよね。電波が飛び交っているんだろうけど、これを可視化できたら、どれだけすごいか……とも想像するね。リアルでないつながりって、俺たちは不安だけど、この先どんどん顔の見えない世界になっていくのを象徴している。

ソニーRX100Ⅶ・9~72ミリ・F4.5・1/640秒・ISO200・エプソンEW-M873T・エプソン写真用紙/神戸市・3月中旬,14:45頃

9月号「木洩れ日と遊ぶ!」檀上純一(福岡)

9月号「木洩れ日と遊ぶ!」檀上純一(福岡)

立木 木洩れ日っていうと季節はいつのイメージ?
――えっ? そう言われると困ります……。
立木 実はどの季節の季語でもない。となると季節感で判断していくしかない。とはいえ、子どもって発想はコペルニクス的転回があって縛りがないんだけど、大人になるにつれ心身ともに穢れ、忖度までするようになる。
――自分たちで遊び方を見つけるんですもんね。
立木 ところでこのバス停、なんか気になっていたけど。宮崎駿さんの映画のシーンであった、猫バス号を待つトトロが出てくるあの場面。選んだ時は気が付かなかったけど、よく見たらそんな舞台になっていたわけだ。

オリンパスOM-D E-M1 MarkⅡ・Mズイコーデジタル12~40ミリ・F4・1/160秒・ISO200・エプソンPX-5V・松本洋紙店絹目調/由布市・10月上旬,10:15頃

10月号「ゴールネット」佐藤寛治(鳥取/山陰YPC)

10月号「ゴールネット」佐藤寛治(鳥取/山陰YPC)

――サッカーの練後、片付けの様子です。
立木 師匠からイベントの前後にチャンスあり、とありがたいお言葉をいただき、それを実践したからこそ撮れた写真。サッカーのゴールって大きいもの、って思い込みがあるからさ、小さい子どもがひとりで持っているという不思議さが最初は驚きを与えた。
――広角でグッと寄っているのも面白さを加えています。
立木 背景を見ると休みのたびに協力してくれるお父さん、お母さんたちの車が見えるけど、軽自動車が多いのかな。地方は一人一台だし、地域性も出ていて味わい深い。モノクロにしたことでゴールの形が浮き彫りにもなった。

キヤノンEOS70D・EF-S10~22ミリ・F11・1/320秒・ISO400・エプソンPX-5600・コクヨ写真用紙絹目調/松江市・6月下旬・10:30頃

11月号「路地の自転車」柄松 稔(兵庫)

11月号「路地の自転車」柄松 稔(兵庫)

――冬の西日が画面奥に見えます。
立木 路地裏という舞台がいいよね。うらぶれているというか、水はけの悪そうな感じが魅力的。放射構図の先に太陽があって、それを希望と感じるのか、一日の終わりと感じるかは見る人次第だけど、そこに置かれた自転車は路地をさ迷うのか意気消沈とも感じる。
――背景のボケ具合がボーッと眺めているかのように感じます。
立木 デジタルになってシャープな写真が増えたけど、レンズや絞りを使ったボケを活かすのも写真ならではの表現。なぜか昭和の残り香的なイメージにもなっていて感情移入できる一枚になっているね。

ソニーα6500・E10~18ミリ・F4・1/250秒・ISO200・エプソンEW-M873T・エプソン写真用紙光沢/神戸市・1月下旬,16:00頃

12月号「僕も大空飛びたい」大塚征男(静岡/函写楽クラブ,サークルBEE)

12月号「僕も大空飛びたい」大塚征男(静岡/函写楽クラブ,サークルBEE)

――離陸準備していたらバッタが飛んできて、動作を止めてもらって撮ったそうです。
立木 飛び立つ寸前、パラグライダーさんは手持ち無沙汰でお気の毒な風情なんだけど、撮影しているから待っているわけ。でも写真ってカメラマンのために存在するものって世の中にひとつもないから待たせないで撮れる技量がほしいね。だけど、その時間がこういったリアルな表情に繋がる。
――タイトルからバッタも空を飛びたいのかな……と想像します。
立木 「僕」とつけると童話風でそれらしくなる。ちゃっかりしたバッタなんだって見方は作者のタイトルに誘導されている証拠。

キヤノンEOS7D MarkⅡ・トキナーAF11~16ミリ・F5.6・1/1000秒・ISO100・エプソンEP-976A3・キヤノンスーパーフォトペーパー/静岡県函南町