1月号「星月夜」角森立子(宮崎)

1月号「星月夜」角森立子(宮崎)

【選評】満天の星をバックに、一頭の馬が山の稜線でたたずむ様子を撮影した幻想的な作品です。とてもシンプルな画面構成で切り取り、まるで宮沢賢治の小説を映像化したような仕上がりになっています。また、馬の位置をわずかに画面右側へずらしたことで、馬がどこからやって来てどこへ行くのか、前後の時間や画面外への広がりも感じられます。

満天の星の下、山の稜線にいる野生馬を追い求めて、「動かないで」と願いつつ撮影しました。
キヤノンEOS5D MarkⅢ・シグマAF20ミリ・ソフトフィルター・F2.2・20秒・ISO2000・三脚・エプソンSC-PX1V・エプソン写真用紙クリスピア/串間市・8月上旬,20:30頃

2月号「火の星の記憶」北澤 進(東京)

2月号「火の星の記憶」北澤 進(東京)

【選評】曇り空をバックに、安達太良山の山頂を真正面からとらえた王道の風景作品です。撮影時の天候を上手く利用したことで、色彩の要素を画面から省き、まるでモノクロ写真のような仕上がりとなりました。また、画面奥のかすんだ風景に対して前景をパンフォーカスでシャープに描写することで、異世界に迷い込んだような不思議な印象となっています。「火の星の記憶」も、北澤さんが現場で感じた印象が素直に伝わってくる良いタイトルですね。

強烈な風の中、太古からの大地の力を感じて撮影しました。また、その力強さを表現するため、あえて彩度を落としました。
富士フイルムX-T4・XF16〜80ミリ・F10・1/250秒・ISO400・エプソンSC-PX1V・エプソン写真用紙絹目調/二本松市・10月中旬,11:00頃

3月号「水に写る」渡辺順一(栃木)

3月号「水に写る」渡辺順一(栃木)

【選評】湖に立ち枯れた樹木の列を印象的に切り取った作品です。早朝の青白い光と長時間露光によって、映り込みがやわらかく水面に溶け込んで幻想的な光景となりました。映り込みがシンメトリーに浮かび上がりますが、画面の中心を少し上側にずらしたことで映り込みの美しさが強調され、広がりが感じられる仕上がりです。樹木の黒いシミも、画面に心地よいリズムを与えるアクセントとなっています。

湖に枯れ木がきれいに映り込む様子を切り取りました。
ニコンZ 6・AFニッコール70~300ミリ・F18・3秒・ISO80・エプソンEP-10VA・富士フイルム「画彩」プロ・三脚/日光市・11月上旬,6:30頃

4月号「潮の贈物」佐藤哲哉(大分)

4月号「潮の贈物」佐藤哲哉(大分)

【選評】波の浸食が作り出した造形を、タイトな切り取りで美しく仕上げた一枚です。砂の造形以外の要素を徹底的に省いたことでスケール感が消失し、まるで広大な山岳風景を見ているように感じます。また、左下から右上に向かって尾根を辿るように画面を構成したことで、自然と視線が誘導され、奥行きのある仕上がりにつながりました。被写体を巧みなフレーミングで切り取ることで、最大限に魅力を引き出した作品です。

潮の影響で出現したであろう、とても精緻で儚い砂の造形をダイナミックに表現してみたいと思いました。
キヤノンEOS kiss X7・EF-S18~55ミリ・F10・1/500秒・ISO100・エプソンEP-50V・エプソン写真用紙クリスピア/佐伯市・8月上旬,11:00頃

5月号 「静寂」小柳紀人(静岡)

5月号「静寂」小柳紀人(静岡)

【選評】鏡のように静まった湖面に一羽の白鳥が佇む印象的なシーンです。画面を上下対称に切り取ることで、小さく配置した白鳥へ自然と視線が引きつけられ、強い緊張感と静謐な印象が生まれました。早朝の青みがかった光をあえて補正せず撮影したのも、ひんやりとした空気感や静まりかえった周囲の環境を伝えるうえでプラスとなっていますね。出会いの印象を、的確な判断で切り取った作品です。

まだ薄暗い中を優雅に泳ぐ白鳥が幻想的で美しい光景だと思い撮影しました。
ニコンZ 7・ニッコールZ70~200ミリ・F2.8・1/13秒・ISO200・三脚・エプソンEP-50V・エプソン写真用紙クリスピア/南アルプス市・11月中旬,6:00頃

6月号「雪のデッサン」江袋早苗(埼玉)

6月号「雪のデッサン」江袋早苗(埼玉)

【選評】雪山がつくり出す自然の造形を極限までシンプルにすることで、力強さとフォルムを美しく表現した作品です。雪と空のトーンが揃う瞬間をねらい、雪からのぞく山肌のディテールが水墨画のように浮かび上がりました。また、山の右半分を中心にした切り取り方も、左上から右下への流れが強く意識された構成となり、静かな中に雪山が持つ荒々しい力強さが的確に引き出されています。大きく引き伸ばして鑑賞してみたい名作です!

キャンバスに墨で絵を描いているような白と黒の世界でした。
ニコンD850・AFニッコール24~120ミリ・F16・1/3200秒・ISO1280/長野県軽井沢町・2月中旬,13:00頃

7月号 「朱い実」伊藤和栄(岩手)

7月号「朱い実」伊藤和栄(岩手)

【選評】霧でかすむ背景に、真っ赤な実をつけた樹木の枝先が美しく浮かび上がりました。背景には紅葉の色彩がわずかに写り、にぎやかな様子を感じさせます。出会いの光景をシンプルに前後に対比した作品ですが、樹木と背景を思い切った割合で切り取ったことで、緊張感のある構成と画面外への広がりが生まれました。霧の晴れ間をねらうため粘って撮影したとのことですが、被写体と向き合った時間が、作品に奥行きを与えたのではないでしょうか。

濃い霧の中から、時折顔を出す朱い実の美しさを表現したくて、約2時間粘って撮影しました。
ニコンD810・AFニッコール70~300ミリ・C-PL・F16・1/30秒・ISO800・三脚・エプソンSC-PX5VⅡ・エプソン写真用紙絹目調/八幡平市・10月下旬,14:00頃

8月号「草をはむ」大塚美代子(静岡)

8月号「草をはむ」大塚美代子(静岡)

【選評】ローアングルから牛の姿を見上げ、股下から富士山を望むダイナミックな作品です。広角レンズによるデフォルメの効果と、上からの光による強い陰影によって牛の姿が力強く表現されており、秀麗な富士山の姿との対比が際立っています。シンプルな構成ですが、画面ギリギリまで利用した牛の描写によって、長閑な風景に心地よい緊張感が生まれました。2つのモチーフを独自の視点で切り取ったアイデアが素晴らしいです。

乳牛をローアングルで、富士山と重なった瞬間に撮影しました。
ソニーα6500・E18~135ミリ・F13・ISO400/富士宮市・4月中旬,14:00頃

9月号「自慢のカマ」辻 巖(大阪)

9月号「自慢のカマ」辻 巖(大阪)

【選評】鎌を振りかざしたカマキリを勇壮に切り取った作品です。オレンジから青へとグラデーションで変化する空をバックに、照らされたカマキリの姿が浮かび上がり、ドラマのワンシーンのような世界が広がりました。カマキリを少し見上げた視点によって、小さな昆虫の姿を力強く表現していますね。無駄な要素を徹底して排除し、シンプルな画面構成としたのも、力強さを強調する良い判断でした。

朝日に向かって、雄叫びをあげているようなポーズを取るカマキリを見つけ、思わずシャッターを切りました。
ソニーα1・FE90ミリマクロ・F5.6・1/320秒・ISO800・エプソンSC-PX1V・ピクトリコシルバーラベルプラス/堺市・10月中旬,6:00頃

10月号「羽根に朝露」山崎 清(埼玉)

10月号「羽根に朝露」山崎 清(埼玉)

【選評】朝露をまとった鳥の羽毛が斜光に照らされ、ガラスの彫刻作品のようにフォルムを美しく浮かび上がらせています。PLフィルターと露出のマイナス補正によって水面を暗く落とし込み、白い羽毛と水滴の造形が最大限に強調される仕上がりとなっています。また、羽の向きを画面に対して少し斜めに構成したことで、俯瞰撮影による静かな印象に動きの要素も生まれました。周囲の空間も、画面から緊張感が伝わるバランスの良い判断です。

池に羽根が浮いている様子。よく見ると朝露が無数に付いていたので、露出をアンダーにして撮影しました。
ソニーα7RⅣ・FE90ミリマクロ・PL・F11・1/25秒・ISO100・三脚・エプソンPX-5002・ピクトリコセミグロスペーパー/飯能市・3月上旬,8:00頃

11月号「樹洞」佐藤哲哉(大分)

11月号「樹洞」佐藤哲哉(大分)

【選評】巨木のうろを内部から見上げた、迫力のある作品です。広角レンズの効果を最大限に引き出したパースペクティブの効果によって、頭上の穴へと吸い込まれるように錯覚しました。上から入り込んだ光は、長い年月を経て曲がりくねった幹の質感を力強く浮かび上がらせ、外側にわずかに見える若葉と対比されて、生命の大きな循環を感じさせるようです。出会った被写体の魅力を最大限に伝えるために、最適な判断で切り取られた秀作です。

大樹の幹の下部にある空洞から見上げ、迫力と歴史を表現できるように撮影しました。
ニコンZ 5・ニッコールZ 24~200ミリ・F9・1/80秒・ISO640・エプソンEP-50V・エプソン写真用紙クリスピア/豊後大野市・7月下旬,13:00頃

12月号「飛翔」難波修一(神奈川)

12月号「飛翔」難波修一(神奈川)

【選評】夕暮れの日の光を受けオレンジ色に霞む富士山をバックに、1羽の鳥が飛び去る様子を繊細にとらえた一枚です。鳥の姿は小さいですが、構成要素をギリギリまで切り詰めることで強いコントラストが生まれ、少し中心をずらした富士山と小さな鳥の姿が画面内で呼応し、緊張感のある仕上がりとなりました。どこから来てどこへ飛んでゆくのか、雄大な富士山の姿が鑑賞者の想像を掻き立て、孤独な鳥の姿に感情移入を促される素晴らしい作品です。

夕暮れ時、黄砂に霞んだ富士山をバックに羽ばたく鳥を撮りました。
キヤノンEOS90D・EF100~400ミリ・F11・ISO200・1/640秒・キヤノンPIXUS PRO-100S・富士フイルム「画彩」/神奈川県葉山町・4月上旬,18:00頃