1月号「盛夏」中道ちあき(和歌山)

1月号「盛夏」中道ちあき(和歌山)

【選評】陽に焼けたおしゃまな少年のキャラクターがいいですね! 濡れてカールした髪、サングラスに映り込んだフェニックス、背景の入道雲など、海辺の素材を写し込んだ盛夏のワンシーンが明快なフレーミングで切り撮られたインパクトのある作品です。写真は写された内容がよいのはもちろんですが、納得のいくプリントに仕上げることで作品となります。この写真は美しいプリントに仕上げられていて、撮影者の作品づくりへの真摯な姿勢がうかがえます。(林)

2月号「神輿の火渡り」太田秀樹(北海道)

2月号「神輿の火渡り」太田秀樹(北海道)

【選評】燃えさかる激しい火をバックに、手前の若衆三人の動きのシルエットが画面に映えます。まるで神輿が燃えているかのような迫力と緊張感が写真から伝わってきました。ベストの撮影ポジションを確保し、炎の動きを的確なシャッター速度で決めた露出づくりは見事です。炎が燃え上がる瞬間をしっかり写し止めて、目の前で燃え上がる炎を避けようとする手前三人の若衆それぞれの動きのタイミングが、その決定的瞬間をさらに強いものにしています。(佐藤)

3月号「透視めがね」嵯峨勘左ヱ門(静岡)

3月号「透視めがね」嵯峨勘左ヱ門(静岡)

【選評】強烈なインパクトから心が引き込まれる作品です。印象を強くしたいがために要素を増やしすぎてしまう失敗はよく見かけますが、シンプルかつ大胆、どストレートに飛び込んでくる写真は目を引きます。この子は何を見ているのか。カメラを構える人の心を心眼でとらえたとでも言いたげな虚ろな視線、普段絶対にしないであろう指の形、半端な化粧。すべての要素が不自然。そんな不自然に調和をもたらせているのがモノクロームの仕上げと思い切った寄り。非常に強い作品です。(藤村)

4月号「回想」朝倉スミオ(愛知)

4月号「回想」朝倉スミオ(愛知)

【選評】ガラスに映りこんだ虚像と実像が入り混じった、おぼろげな白日夢のようです。「回想」というタイトルからして、作者もそんなインスピレーションを感じられたのではないでしょうか。写真は個人の主観が知覚したものの表現です。作品が見る人の心に共感を呼んだ場合、それはいい作品と言えるでしょう。この作品はハレの場面ではなく、舞台裏の何気ないシーンを明確な狙いで撮られた、作者の集中力がうかがえる余韻の残る写真です。(林)

5月号「光るエッジライン」犬塚勝正(愛知)

5月号「光るエッジライン」犬塚勝正(愛知)

【選評】逆光に輝く光と影が印象的でした。エッジが描く氷面のアート、バランスのよい人物の配置、無駄のない構図、キリリと締まった露出、そして偶然性が重なって得られた力作です。新聞紙面などで迫力のあるレースを写したスポーツ写真は多く見ますが、この作品は別の視点でとらえた点がよかったです。氷面に描かれた数えきれないエッジの線に、多くの選手のさまざまな思いが感じられ、その練習の積み重ねが刻まれているかのようです。(佐藤)

6月号「化粧中」樋口良夫(愛媛)

6月号「化粧中」樋口良夫(愛媛)

【選評】祭りでの化粧シーンはよくありますが、この写真は読み取る情報のほとんどが鏡にあります。鏡そのものの存在感が秀逸で、まるで鏡の向こう側に人々がいるように見えます。この写真の深さは、撮影しているこちら側が実は鏡の中の世界なのではないかという錯覚に陥る点でしょう。さまざまな表情と仕草で“向こう側”の世界と我々の世界の繋がりや物語を想像してしまう、非常に面白い作品です。(藤村)

7月号「Lips」瀧本佳史(和歌山)

7月号「Lips」瀧本佳史(和歌山)

【選評】舞妓さんが風車を吹いている口元に視点を向け、ふとしたあどけない表情をよくとらえています。桃色のうっすらとした頬紅、目のふちに紅を引いた目弾き、鮮やかな紅をさした口紅の化粧から、雅な花街で育まれた美意識が感じられます。ソフトフィルターを使ったことが視覚的に優しい色香を伝え効果的となっています。タイトルを和文にせず英文で「Lips」とされたことからも、作者のおしゃれセンスがうかがえます。(林)

8月号「師走の大通り」下村あつ子(大阪)

8月号「師走の大通り」下村あつ子(大阪)

【選評】交通量の多い時間帯の交差点を舞台に、光跡と街の光景を長秒露光でまとめた傑作です。撮影時間と場所選びがよかったですね。直進・右折・左折・車線変更など、さまざまな車の動きを画面にとらえ、テールランプやヘッドライトの光跡が変化に富んで、とても美しく表現できました。時間をかけて露光を重ね、カラフルな色の光を作り出し、光を生かすためのテクニックが際立ちます。二度と同じ光景が撮れない面白い世界がそこにあります。(佐藤)

9月号「視線」皆川春奈(愛媛)

9月号「視線」皆川春奈(愛媛)

【選評】これはやられました! 隙間から覗く眼、自分でセッティングしたものではなく、配達された状態でこうなっていたとは、すごい偶然ですね。よい被写体に出会ったときに、どのように作品に仕上げていくか。大胆にポストを切り取り、覗く眼を目立つように配置し戸を開ける手を入れる、この効果は絶大です。単にポストだけを狙っていたのでは、このようなよい作品にならなかったでしょう。イメージして、作品を仕上げる。この、とても大切なことが実践できている証拠です。(藤村)

10月号「血気盛ん」吉田正男(福島)

10月号「血気盛ん」吉田正男(福島)

【選評】リアルな描写力と観察眼によって、対象となった猿の気迫のある視線を真正面から見事にとらえ、美しいモノクロプリントに仕上げています。本来、野生の猿と目を合わせて威嚇してはいけないと言われますが、撮影者は絶妙な距離を保って対峙し、ここぞ! と感じた一瞬を逃さずものにしています。日ごろから写真への情熱と作品づくりへの真摯な姿勢を持ち続けていることで、このような印象に残る写真を撮ることが叶ったのでしょう。(林)

11月号「秋の風物詩」亀井秀樹(広島)

11月号「秋の風物詩」亀井秀樹(広島)

【選評】赤・青・緑とカラフルな海苔網が整列して並び、その中で人々が点在する様子が強く目を引きました。海に浮かぶ海苔養殖、船に乗って作業する風景は見たことがあるのですが、海苔網の周りを人々が歩き回って作業をするという珍しい光景ですね。干潮の時間を狙った撮影によって人々の働く姿が映えたこと、大きな海苔網に対して小さく人々を配置したことで海苔養殖のスケールの大きさも表現できました。曇天だったこともラッキーな要素でした。(佐藤)

12月号「帰省」宮西貴一郎(福岡)

12月号「帰省」宮西貴一郎(福岡)

【選評】心を打つ写真はストーリーに喜怒哀楽があり、心を動かされる写真には感動があります。“感動”とは文字通り心が動くことなのです。お盆は大切な人の霊が帰ってくるときで、目印となる盆提灯には故人との思い出が蘇り投影され、撮影者の宮西さんはどのような思いでお盆をすごしたのだろうと想像がふくらみました。単なる行事としてだけではなく、思い出を心と写真の記録として残した感動的な作品です。左側の写真に反射する映り込みが顔のように見えるのは私だけでしょうか。(藤村)