1月号「雨日の花火大会」松島眞知子(静岡)

1月号「雨日の花火大会」松島眞知子(静岡)

【選評】花火大会開始間際の雨という残念な状況の中、むしろその状況の悪さを逆手にとって見事にまとめました。スローシャッターを使って被写体ブレを取り入れた動的な表現から始まり、ほか三枚の静的な表現との対比は、作者の技術力や表現の厚みを感じさせます。それぞれの写真ごとに花火大会を楽しみにしていたはずの人のとらえ方やフレーミングもお見事。人間に対する作者の鋭い観察力があってこそだと思いました。組写真の並び順も時間軸やストーリー性を感じさせる構成なので見る人が作品の世界に入りやすいです。こういう組写真を見ると雨の花火大会も悪くないなぁと思えますが、実際の撮影はさぞ大変だったことでしょう。

2月号「暴れ獅子」石津武史(奈良)

2月号「暴れ獅子」石津武史(奈良)

【選評】まさに組写真ならではの表現! と思わせる作品です。スクエアで切り取られた一枚一枚の写真はそれぞれ人間の動きを軸にしっかり見応えある写真として成立しているのに、四枚を並べてみるとひとつの獅子が浮かび上がってきて、それがかなりの精度で繋がっています。あらかじめよく考えてから撮影をしないと、後からでは絶対にこうはならないでしょう。人の動きだけを見ても起承転結を感じられるバリエーションもあります。また、人物の顔が見えるのと見えないのを半々にしたのは、組写真全体としてはバランスがよいと感じました。

4月号「生命の起源」辻 慶二(高知)

4月号「生命の起源」辻 慶二(高知)

【選評】何を被写体にして、どのように撮影したらこんな写真になるのだろう……なにもかもわからない不思議な組写真です。ただ、とにかく面白い作品で、あまり見たことがない写真であることは間違いなく、タイトルにあるような本来写せない遥か太古の世界さえも写してしまっているところに大きな驚きを感じました。選考後に作者から何をどう撮ったのか種明かしの情報をいただいたのですが、本当に身近にあるなんでもないものを被写体として、合成や大幅な加工などもせずに撮られたものでした。作者の視点の鋭さはもちろんのこと、写真が表現できることの可能性の広さにもあらためてワクワクした、とても素晴らしい作品です。

5月号「手荒い御利益」石津武史(奈良)

5月号「手荒い御利益」石津武史(奈良)

【選評】本物ではないとはわかっているけれど、まるで血痕のように見える食紅の赤がとても重要な組写真です。最初に①で子どもの低いポジションからの視界を見せ、②で逃げながら倒れたかのような地面スレスレから見る足元の動きで、迫り来る様子を感じさせられます。そして③のどこにも嘘がない恐怖に泣き叫ぶ子どもの表情で緊迫感を表現し、最後に④で終わることで作品に余韻を生み出す、この映画を見ているかのような一連の並べ方が実にうまいと感じました。なりゆきで撮ったものを後からまとめたのではこうはいきません。最初からしっかり構成を考えて作られたのではないかと想像できる、よく練られている組写真です。

6月号「寒行」廣富 登(神奈川)

6月号「寒行」廣富 登(神奈川)

【選評】雪景色の中での托鉢という魅力的なシーンを、状況のよさだけに甘んじることなく、しっかりと作者ならではの世界観を大切にしてまとめられた力作です。まずは凍てつく寒さが感じられるような色の少ない状況の中で、組写真全体を青く包む色の統一感が目に飛び込んできます。さらに雪の印象を強めるためにさりげなく弱めにストロボを使っている技術もなかなかのもの! そしてこの組写真の最大の特徴は“語りすぎていないこと”だと思います。それぞれの写真を見るとむしろ少し舌足らずに思えるほどの情報量の少なさが、組写真として三枚にまとめたときに、写真の行間を埋めるよう見る者の想像力を働かせるのではないかと思います。

7月号「覗く」佐藤衣代(大分)

7月号「覗く」佐藤衣代(大分)

【選評】最小の二枚組で、とてもシンプルだけれど奥が深い組み方だと感じました。それには上下を反転させた②が重要だと思います。こうすることで、まるで白鳥自身になって、覗いた先の水の中の世界が写っているかのような、そんな錯覚を感じます。それに加え、二枚とも木の映り込みがあったり、構図中央に白鳥を配置していたり、色彩が似ていたりと、二枚を繋げる共通要素がたくさんあることもよかったでしょう。センスや遊び心がどれほどあるかが作品の出来を左右しそうな組写真ですが、とても魅力的に仕上がっていて、見た瞬間に「これはやられた〜!」と思わず唸りました(笑)。

8月号「陰陽」山本芳子(高知)

8月号「陰陽」山本芳子(高知)

【選評】この作品の面白いところは、写真を一枚ずつ見ただけでは特に「陰陽」を強く表しているようには感じないけれど、四枚をこのように並べることで、そしてタイトルがつくことで、「陰陽」という可視化しにくいものが完全に写っているように“感じてしまう”ところでしょう。可視化しにくい作品をまとめるコツは、無理にビジュアルで説明しようとせず、この作品のように“感じさせること”が大事というのがよくわかります。全体を通して黒い部分が多くあること、一枚ずつの写真には特別に強い説明的要素がないこと、このあたりが特に効果的だったのではないかと思います。そのことによって作品の世界観が想像力で増幅されることに繋がりました。

9月号「前夜」田中博文(滋賀)

9月号「前夜」田中博文(滋賀)

【選評】祭りの「前夜」という、本番ほどはピークと呼べるようなものがない時間帯に注目した狙いがよかったです。淡々と時間だけが過ぎていく舞台裏の雰囲気が、それぞれの写真の裏側から静かに伝わってくるようです。祭りの主役になるであろう②の二人を真正面からとらえることで表情も気合いもよく伝わり、本番ではどんな活躍をするのか想像力が膨らみますし、③のような少し遠目からの傍観者的な静かな視点を入れることで、四枚の流れの中に適度なメリハリが生まれて見応えが出ました。毎年撮り続けている中でこの集会に参加を認められたとのこと、嬉しいですよね。今までの時間や経験の積み重ねがあったからこそ出会えた作品でしょう。

10月号「丸」松島眞知子(静岡)

10月号「丸」松島眞知子(静岡)

【選評】非常にわかりやすいテーマ。それでいて各作品の視点の面白さや品質はとてもレベルが高いのがたまりません。誰でもよくわかるけれど、誰にも真似できない……まさに推薦にふさわしい作品だと感じました。作品をハイレベルに仕上げるために二つの工夫がされています。まず①や④のクローズアップで一部分を切り取った写真を入れたこと。それでもどんな動物かがしっかりわかる、いい切り取り方ができています。よく見ると大きな動物ほど、より一部分の切り出しになっています。尻尾に注目しているから当然といえば当然ですが、それによって動物の縮尺が実際の大きさと比例しているのもいいですね。そしてもうひとつは動物の向きです。左右バランスよく、そして左右左右と交互にリズミカルな配置も飽きさせません。

11月号「コンタクト」辻 慶二(高知)

11月号「コンタクト」辻 慶二(高知)

【選評】撮る作者も、そして見る読者や選者にとっても、想像力が試される作品です。どれか一枚を見ただけでは、はっきりと具体的なイメージが見えてきませんが、何枚も積み重なることによって、作者の伝えたかったイメージがじんわり浮かび上がってきます。ここでは作者のコメントにある「地球外知的生命体との交信と接触」というビジュアルでは表現しにくい部分が、どういうわけか写真からはしっかり伝わってくるから不思議なものです。モノクロにしたこともきっとよかったのでしょう。まさに組写真だからこその表現。どことなく映画を見ているような気分になりました。

12月号「ほとばしる夏」松浦幸蔵(静岡)

12月号「ほとばしる夏」松浦幸蔵(静岡)

【選評】どれも単写真として成立する作品であり、それらが集まっているからこその圧倒的な力強さを感じます。まさにほとばしっていますね。ただ、②と③が構図的に似ていると思ったのも事実です。いい写真を集めても、必ずしもいい組写真になるとは限りません。しかし何度も見ていく中で、作品の印象深さが頭から離れなくなりました。なぜなのか考えてみると、どの写真も狙って撮れないような奇跡の一瞬が写っているから、という結論に至りました。技術だけでなく、運と呼べるような要素もかなり入っているのではないかと。これを呼び込むのは誰にでもできることではない、とても大きな才能です。多少のマイナスがあったとしても、それを余りあるプラスで補っていると感じて推薦に選びました。

※3月号・欠番