1月号 「パステル色の猫島」吉川優子(北海道)

1月号「パステル色の猫島」吉川優子(北海道)

【選評】本作は僕自信にとってあまり巡り合わない作品だと感じました。というよりコンテストだと昨今重厚な仕上がりのものが多く、このようなポップで色彩豊かな作品は少数派なのではないでしょうか。まずそこで心を掴まれました。しかしそれでは推薦には至りません。さらなる面白みが、多重に詰まっていたから受賞という結果になったわけです。まずは表情豊かな壁面をテーマに持ってきたこと。それを正対して平面的にとらえてデザイン的な面白さを演出しました。そこの様々な日常的なシーンが組み合わさります。そして軸となるのが猫です。ユニークな3枚を定点的に集めて組写真ならではの面白さが表現できています。

カラフルな壁の前に猫を入れて平面的に撮った3枚を組み合わせました。
キヤノンEOS Kiss X7・タムロンAF18〜270ミリ・①③F7.1・1/200秒・ISO400②F4.5・1/500秒・ISO200・エプソンSC-PX7VⅡ・ピクトリコGEKKOレッドラベルプラス/イタリア

 

 

 

2月号 「残照」大角 勝(静岡/21の会)

2月号「残照」大角 勝(静岡/21の会)

【選評】場合によっては一定した目線や距離感の切り撮りは、作品が単調に見える結果になりがちです。本作はある意味でそれを逆手に取り、まるで小劇場の舞台写真を観るような、決め荒れた画角の中に凝縮された世界を描いています。そこには鮮やかでかつ雑然とした日常が淡々と記録されていますが、起きている瞬間や表情、動きに面白みを感じます。そしてさり気なく散りばめられた色。トタンやカゴ、大漁旗が効いています。主になる被写体もフォトジェニックですが、それを取り囲む世界も魅力的で、空間が被写体にストーリーを与えています。単写真でもそれぞれ勝負できるクオリティーに仕上がっています。

夏、日差しが傾きを増すころに浮かび上がる街角の表情が感じられるカットをセレクトしました。
①④ニコンD300S②③ニコンD300・AFニッコール16〜85ミリ・①F10・1/400秒②F7.1・1/500秒③F8・1/250秒④F9・1/320秒・①③ISO400②④ISO800・エプソンPX-5600・ピクトリコプロセミグロスペーパー/①富士市②沼津市③④静岡市・①③6月上旬,②④7月中旬,16:00頃

 

 

 

3月号 「不安な日々」玉手恒弘(北海道/材写協)

3月号「不安な日々」玉手恒弘(北海道/材写協)

【選評】ご自身の入院生活を切り撮った作品です。モノクロームの表現も相まって非常に「重い」作品に仕上がっています。入院生活の閉塞感が染みるように伝わってきます。院内の様子は暗め目に写し出されており、変化のない日常を表現しているように感じます。唯一外を見ることが気晴らしになるのでしょうが、雨が心を沈ませるとコメントされています。しかしそんな中でも少しユーモラスな瞬間が外では起きており、それをシャッターチャンスよくとらえています。おちょこになった傘を広げる子どもの無邪気さがほんの少し心を和ませてくれたのではないでしょうか。この一枚が良いアクセントとなり、撮影者の心の内が伝わる作品となりました。

入院生活が続き、病室から外を眺める毎日でした。雨の日は特に心が沈みます。
キヤノンPowerShot G7 X・8.8〜36.8ミリ・①③F3.5②F5.6④F4.5・①③④1/200秒②1/60秒・①ISO250②ISO640③④ISO125・キヤノンPIXUS PRO-100・キヤノン写真用紙絹目調/岩見沢市・6月下旬,16:00頃

 

 

 

4月号 「密」吳 東璟(東京)

4月号「密」吳 東璟(東京)

【選評】コロナ禍において密度の高い人物模様は、もはや遠い記憶となりかけています。そんな様々なシーンを圧縮されたレンズ効果で強調して高密度に表現しています。さらに面白いのが被写体の距離感と向きです。3枚それぞれに画角の変化があり、加えて1枚1枚、被写体の意識の方向性が異なっています。それを組み合わせたことによって「ただの群衆写真」にならず各写真に存在感が生まれました。モノクロームでの表現も相性が良かったようです。一人ひとりの個性は必要なく記号のように並んでいるところに面白みがあります。色をなくすことによってかえって人が粒立って見えるように感じました。

コロナ禍の2年前、大勢の人が集まったイベント(渋谷のニューイヤーカウントダウン、花火大会)で撮った写真です。今の時世でなかなか見られない光景が懐かしいです。
ソニーα6300・E55〜210ミリ・F6.3・①③1/60秒②1/80秒・①ISO4000②ISO2000③ ISO1600・エプソンSC-PX5VⅡ・微光沢紙/①東京都渋谷区,12月②東京都足立区,7月③横浜市,8月

 

 

 

5月号 「裏通り」加藤吉和(愛知)

5月号「裏通り」加藤吉和(愛知)

【選評】裏通りに集まる様々な人々。何気ない日常の一コマですが、とても生き生きととらえられています。カメラ目線のカットもありコミュニケーションをしっかり取った上での撮影でしょう。被写体との距離感がそのまま撮影の距離感に現れています。普通はカメラを向けると構えてしまいなかなか自然な表情を引き出すのさえ難しいものですが、動きの瞬間性も加わり、声まで聞こえてきそうです。登場人物も複数ですが、それぞれ良い表情をしています。そんな被写体の組み合わせも面白くその関係性などを想像したくなります。背景も味があり写真にいい変化を与えています。

いい写真が撮れそうだったのでその場の雰囲気を壊さないように配慮して撮りました。
キヤノンEOS5D MarkⅣ・EF24〜105ミリ・UV・F8オート・ISO400・エプソンSC-PX5VⅡ・ピクトリコプロセミグロスペーパー/一宮市・4月中旬,10:00〜16:00頃

 

 

 

6月号 「さよなら……夏」加藤和弘(三重/愛写道)

6月号「さよなら……夏」加藤和弘(三重/愛写道)

【選評】スポーツ写真では迫力の瞬間や勝者の歓喜が描かれているものが多い気がします。本作は敗者が主役です。そしてそこに描かれているのは「思い」という目に見えないもの。それをプレイヤーではなく「それ以外の人」にレンズが向けることによって、また違った思いを浮かび上がらせています。それぞれの立場で声を張り上げて力尽きた、試合終了後の静けさを感じます。構成的に評価したいのが徹底してその表情、目線が写されていないことです。悔しさ悲しさなどの感情を「目」以外で、しかもバラエティ豊かに表すことによってむしろ見る人の感情移入をしやすくしているのです。

2020年、特別だった夏。熱かった日の想い出。今年こそは暑さで倒れそうな……夏。
ニコンD600,D810・AFニッコール28〜300ミリ・UV・①②④F8オート③F6.3オート・①③ISO500②ISO800④ISO1000・エプソンPX-5V・キヤノンスーパーフォトペーパー/松阪市・7月下旬,13:00頃

 

 

 

7月号 「伝承」松島茂雄(静岡/浜松写友会,サークルBEE浜松)

7月号「伝承」松島茂雄(静岡/浜松写友会,サークルBEE浜松)

【選評】祭りは本当にフォトジェニックな被写体です。祭りが生み出す力強さや活き活きとした表情。その魅力を余すことなく写し込んだ王道の作品です。もちろんそこにさらなる要素が加わればより印象的な作品に仕上がります。本作でいえば力強い光と鮮やかな色。5枚すべてが単写真でも勝負できるクオリティーの高さです。特に気になったのは⑤。鮮やかなテープをなびかせて走り去る馬の後ろ姿は躍動感と色彩に溢れており、神秘的にすら感じられます。動きのある作品の中で③の素朴でシンプルな子どもたちの笑顔が良いアクセントになっています。

少年が全速力で走る馬に乗り、手放しで五色のテープを流す伝統の行事。町内の人々がもり立てます。
ニコンD7000・AFニッコール18〜300ミリ・F8・①1/800秒②1/125秒③1/10秒④1/640秒⑤1/800秒・①④⑤ISO800②③ISO1600・エプソンPX-7V・富士フイルム「画彩」プロ/豊橋市・4月中旬,13:00〜17:00頃

 

 

 

8月号 「夏すだれ」尾内 泰(埼玉/所沢写楽会,アビリティフォト)

【選評】夏祭りのすだれのある風景。これだけでもフォトジェニックですが、そんな光景をバリエーション豊かに集めることができました。しかしそれだけではなく、それぞれにしっかりドラマがあり、単写真としても見応えのある作品がそろっています。それらをまとめているのは同じ距離感、同じ真正面からのアプローチです。瞬間の表情は違えどしっかりと一本の軸が感じられます。文字をうまく使っているところもポイントです。文字を入れるな、という考え方もありますが、この作品では重要な役割をはたしています。提灯、傘なども合わせて祭りの雰囲気、情緒のある町並みを見る人に想像させるヒントになっています。

3年前の夏まつりの作品です。コロナ禍のため過去の作品を見直して組み直しました。奈良井宿の夏祭りの撮影はこの時で2度目でした。家々の祭りを迎える様子を子どもを通じて表現しました。
ペンタックスK-70・シグマAF18〜300ミリ・①②F6.3・1/200秒③F9・1/320秒・①ISO500②ISO200③ISO640・エプソンPX-5V・ピクトリコプロセミグロスペーパー/塩尻市・8月中旬,11:00〜13:00頃

 

 

 

9月号 「青春」加藤和弘(三重/愛写道)

9月号「青春」加藤和弘(三重/愛写道)

【選評】この中のそれぞれ1枚でも作品として成立するような力強さがあります。たった3枚でも枚数以上に多くの感情、状況が伝わり、高校球児の熱い夏を十分感じ取ることができました。作品それぞれも思い切って寄ることで余計な状況を排除し、シンプルに汗と泥にまみれた球児の懸命さを浮き立たせています。3枚組としての並べ方も上手く、①③は表情の一部しか見えませんが、②で表情のみに絞り、並べた時のバランスの良さとインパクトを与えています。一番気に入ったカットは①。右上にわずかに口元だけ見える選手の悔しい表情とボールを握りしめた手がすべてを物語っています。

最後の夏、精一杯戦った球児。悔いなき想いを。濃いめのプリントに仕上げました。
ニコンD750,D810・AFニッコール28〜300ミリ・UV・①③F8②F7.1・①1/400秒②1/2000秒③1/1600秒・①③ISO800②ISO640・エプソンPX-5V・エプソン写真用紙クリスピア/津市,松阪市・7月下旬,12:00頃

 

 

 

10月号 「風薫る」遠井信行(茨城/全日写連茨城県西支部,小山YPC,UPs)

10月号「風薫る」遠井信行(茨城/全日写連茨城県西支部,小山YPC,UPs)

【選評】大祓の様子。大祓とは常に清らかな気持ちで日々の生活にいそしむよう、自らの心身の穢れ、諸々の罪・過ちを祓い清めることとされています。大掛かりな神事ではなく我々の文化に根付いた行い、そして思い。その空気感がしっかりと見るものに伝わってきます。風、水、光をとらえた作品はそれぞれ違ったシーンを写し出していますが、深い「緑色」という一本の線でしっかりとつながり、単写真としても見ごたえがあります。レンズや目線の変化も、枚数以上に様々な表情を感じさせてくれます。

六月晦日は大祓。水鉢に青もみじ、境内に山百合が香ります。人形は風に舞い、神田は緑のさざなみ。
①②④ニコンD4②⑤ニコンD750・①②⑤AFニッコール24〜70ミリ③④AFニッコール70〜200ミリ・①④F4.5②F6.3③F4⑤F7.1・①②1/100秒③1/250秒④1/125秒⑤1/15秒・①ISO800②④ISO1000③ISO400⑤ISO50・エプソンSC-PX1・ピクトリコプロソフトグロスペーパー/桜川市・6月下旬,①15:30頃②16:15頃③15:10頃④16:45頃⑤17:00頃

 

 

 

11月号 「厳かな日常」吉川優子(北海道)

11月号「厳かな日常」吉川優子(北海道)

【選評】最初に作品を見た瞬間に「やるな〜」と声を出してしまいました。十字架と男女。ブライダル的な要素ですが、それらを日常から見つけ出しました。特に十字架は十字架そのものではなく、十字に見えるものを切り撮って表現しています。そこに男女をしっかりと狙い通りに写し込んでいます。さらに加えて「光」が印象的に効いており、二重三重と要素を重ねています。すべての要素がドンピシャで揃うことによってストーリーが生まれました。構図のバランスの良さや面白さも効いており、非常に完成度の高い作品となったのではないでしょうか。4シーンとも全く違うシチュエーションと構図で構成できたのも、組写真としての面白さをフルに活かしています。

日常の風景の中に見つけたクロスと男女ペアを組み合わせ、厳かな雰囲気の漂うチャペルをイメージして撮影しました。
オリンパスOM-D E-M1 MarkⅡ・Mズイコーデジタル12〜100ミリ・①F9・1/200秒・ISO640②F4・0.6秒・ISO800③F4・1/320秒・ISO200④F10・1/200秒・ISO1250・②④三脚・エプソンSC-PX7VⅡ・ピクトリコソフトグロスペーパー/札幌市・3〜10月,15:00〜20:00頃

 

 

 

12月号 「祭り人」喜舎場和広(愛知/ニッコールクラブ)

12月号「祭り人」喜舎場和広(愛知/ニッコールクラブ)

【選評】ポートレート、それも表情のみで作品構成するのは大変難しいものです。本作は祭りの人々の表情をアップでとらえたもの、という非常にシンプルな素材で構成しました。通常であれば笑いや力強い表情を切 り撮るところ、本作はやや緊張感のある、ややもすれば不穏な印象を与えるような、なんとも言えない表情でまとめ上げました。さらに、そんな表情を集めるにせよ、これだけドラマチックなシーンを表情や光線でバリエーションをつけているところはお見事と言っていいでしょう。白・黒とリズムのある作品構成も効いていて、それもインパクトの強い作品になった要因でしょう。撮りためてきたものだと思いますが、うまくまとめました。

巡り会った個性的な祭り人を、時間がゆっくり流れているように表現してみました。
ニコンD810・タムロンAF28〜300ミリ,キヤノンEOS RP・RF24〜105ミリ・F9オート・ISOオート・エプソンSC-PX5VⅡ・富士フイルム「画彩」プロ/名古屋市・8月下旬,15:00頃